「今こそ別れめ」は「別れ目」ではない!

(第268号、通巻288号) 弥生3月は旅立ちの季節。私の小中学生時代は、卒業式のたびに「蛍の光」と「仰げば尊し」《注1》を歌った、いや歌わせられたものだった。今や、卒業式の音楽も多様化し、昔ながらの「定番」を歌うのは珍しくなったというが、先日の…

「足も、足下も、すくわれないでね。」

(第267号、通巻287号) 一知半解の身で、辞書の語釈の当否を軽々に断じるものではない。前週の第266号に対する愛読者の方々のコメントや感想を読んで、そう思った。今週号の標題は、読者のコメントの一つに紹介されていた『三省堂国語辞典』の編集委員・飯…

「足をすくわれる」は「足元をすくわれる」に変化の過程?

(第266号、通巻286号) 言葉はいつの間にか変わっていく。意味も、語彙も、用法も、さらには文法も。これからしばらくは、言葉の用法を中心にエピソード風につづっていきたい。 最近、ある本を読んでいたら「足元をすくわれる」という表現に出合った。すき…

「ご返事」か「お返事」か“相乗り語”余話

(第265号、通巻285号) 前号からの続きの今回をもって再録シリーズの最後としたい。「お誕生」「ご誕生」のように、「お」も「ご」も使える単語はそう多いわけではないが、少しずつ増えつつあるように見える。前回のブログの末尾でも紹介した、このような「…

Re:「ご返事」か「お返事」か

(第264号、通巻284号) “再録シリーズ”第4弾は、前回取り上げたEメールの“Re:”の続き、Eメールの返信に対する礼状の書き出しの言葉についてがテーマだ。「早速のご返信」か「早々にお返事をいただき……」とすべきか。「ご」か「お」か迷うことがないだろ…

Eメールの“Re:”の本当の意味は?

(第263号、通巻283号) “人気ブログ”の再録シリーズ第3弾は、北海道弁から一気に外国語の世界へ。と言っても難しい話題ではなく、日常よく使うEメールでの定型語がテーマだ。 Eメールを受け取った後、発信者に返事を出そうとパソコンのメールソフトの「…

続 ・北海道弁 「ビール、まかれちゃった」とは

(第262号、通巻282号) 北海道弁を扱った当ブログ「言語郎」の再録第2弾をお届けする。方言といえば、ふつう話題になるのは、語彙の問題。それに加えて共通語とのイントネーションやアクセントの違いだが、今回は視点を変え、北海道弁の文法的な側面に焦点…

クラス会で聞くのが楽しみ 北海道弁

(第261号、通巻281号) 正月の年賀状を整理していたら「今年の夏は釧路で会おう」とか「クラス会をお忘れなく」とかいった文面の賀状が何枚かあった。私の出た高校のクラス会は、オリンピックの年の8月に開かれることになっているのだ。懐かしの北海道弁を…

「絆」の由来 

(第260号、通巻280号) この数年、新聞、雑誌やテレビ番組などで「絆」という文字をよく見かけるようになっていたが、昨年の東日本大震災「3.11」をきっけに絆の登場が劇的に増え、毎日のように耳にし目にする。 たいていの場合、人と人の結び付きとか縁の…

「元旦」の夜はあり得ない

(第259号、通巻279号) 年賀状の賀詞、本文の末尾には、平成24年元日か平成24年元旦、と添えるのが普通だ。元日と元旦。ほとんどの人はその違いを意識せず、単に1月1日の伝統的な言い換えのつもりで書いているに違いない。実際上はそれで差しつかえない。し…

「エン麦」は馬のエサか人間の主食か――辞書の個性

(第258号、通巻278号) テレビにならって当ブログも年末は、今年比較的評判のよかった作品を再録してお届けする。先週号までの流れから辞書の個性をテーマにしたブログを選んだ。 辞書の個性は、『新明解国語辞典』(三省堂)が山田忠雄編集主幹の主観を色…

続々「新解さん」――辞書選びの指標

(第257号、通巻277号) 辞書を比較する際に私がよく使う「右」という語を指標にして辞書の個性の違いを見てみよう。日本初の近代的な国語辞典・大槻文彦著『言海』(六合館)。明治37年2月発行の第1版では、「人ノ身ノ、南ヘ向ヒテ西ノ方。左ノ反(ウラ)…

続『新明解』最新版――辞書の個性

(第256号、通巻276号) オリンパスの損失隠し問題をめぐって第三者委員会が先週公表した報告書の中に、目を引く表現があった。問題の根源に「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成とも言うべき状態」があったと断罪したのである。 前回のブログで『新明解…

『新明解国語辞典』最新版――変わらぬ個性的な語釈 

(第255号、通巻275号) 三省堂の『新明解国語辞典』は、辞書好きの間では「新解さん」(以下、「新明解」と略)の愛称で知られる《注1》。その第7版が「本日発売」と12月1日付けの朝日新聞朝刊に全面広告で掲載された。「日本で一番売れている国語辞典」…

「間人」と書いて何と読むか 

(第254号、通巻274号) 前号に引き続き漢字の読み方について。「人間」という2文字の順序を逆にして「間人」《注1》と書けば何と読むかご存じだろうか。京都など近畿方面の旅から戻り、最寄り駅に降り立って帰宅途中の知人とばったり出会った際、挨拶がて…

呉音は柔らかく、漢音は硬い

(第253号、通巻273号) 今年の文化勲章受章者の1人、作家の丸谷才一氏が岩波書店の『図書』11月号「無地のネクタイ18」に「呉音と漢音」と題してこんな話を書いている。「中学1年生のころ、呉音と漢音のことが気になって仕方がなかった。同じ『今』でも古…

続「七つの子」の歌詞の謎

(第252号、通巻272号) 童謡「七つの子」は、「7歳のカラス」の意か「7羽のカラス」の意か。前回のブログで両説を紹介した後、実はこれ以外に興味深い異説がある、と思わせぶりに文を結んだ。今回は、七つの子の歌詞の謎について、いわば「第三の解釈」を…

カラスの「七つの子」は7歳か7羽か、それとも……

(第251号、通巻271号) これまで3回続けた童謡「赤とんぼ」の次は「カラス」。ブログに対するご意見、コメントの中に「童謡の世界には動物を擬人化した歌詞も多い」と指摘して「七つの子」を挙げ、「ところで七つの子とは、7歳の子なのか7羽の子なのか……

続々「赤とんぼ」。「お里のたより」とは何を指すのか

(第250号、通巻270号) 童謡「赤とんぼ」の謎をめぐるブログの3回目。「十五で姐やは嫁にゆき お里のたよりも絶えはてた」という3番の歌詞の中の「お里のたより」については諸説がある。1)「お里」は、姐さん、つまり子守り娘の実家(生家)のこと。ま…

続「赤とんぼ」。歌詞の謎

(第249号、通巻269号) 「赤とんぼ」を子どもの頃、口ずさんでいて分からなかったのは1番の歌詞の「おわれてみたのは」の「おわれて」だった、という人が少なくない。漢字で「負われて」とあれば、誤解は避けられるが、耳から聴いただけでは「追われて」と…

イ・ムジチ演奏の「赤とんぼ」を聴いて

(第248号、通巻268号) 先だっての日曜日、横浜みなとみらいホールで結成60周年ツアーと銘打って来日中のイ・ムジチ合奏団のコンサートを聴いた。イ・ムジチと言えばビバルディの「四季」が定番中の定番の曲目。相変わらず流麗な演奏を披露してくれた。プロ…

「出精値引き」とは

(第247号、通巻267号) 自分の住む団地内の施設の修繕工事をめぐる契約交渉で、「しゅっせいねびき」と耳にした時は、「出世払い」の聞き間違いかと一瞬思った。その場の状況と話の流れからすぐに意味はおおよそ推測できたが、「しゅっせい」とはどんな字を…

「到来物」…。向田邦子に見る懐かしい日本語

(第246号、通巻266号) 9月21日号のブログで向田邦子の作品を取り上げ、「人気」という2文字の読み方は4通りもある、と自説を披瀝したが、それを題材したのはそもそも彼女の巧みな言葉遣いを紹介することにあった。今ではあまり使われなくなった言葉、あ…

友の死に天も「慟哭」

(第245号、通巻265号) 今月7日付けの当ブログで「野分」の読み方を取り上げた。その中で作家の井上靖が自作の散文詩を解説した際、「野分」を「いわば季節の慟哭(どうこく)とでも名付くべき風」と表現している、と紹介した。 そう書いた2週間後の21日…

4通りもある「人気」の読み方と意味の違い

(第244号、通巻264号) 文中に「人気」という2文字を目にしたらごく自然に「にんき」と読む。ただ、文脈によっては「人気のない境内」などのように「ひとけ」と読む場合もある。しかし、「じんき」という読み方までは思い至らなかった。 昭和半ばころの、…

「誠心誠意」ではなくあえて「正心誠意」が野田流?

(第243号、通巻263号) 野田首相は13日午後、就任後初の所信表明演説を行った。各紙の夕刊に演説要旨が予定稿で掲載されていたが、夜7時のNHKのテレビニュースで改めて所信表明の場面を見て「オヤッ、字が違う」と思った。政権運営の姿勢として首相が「…

「野分」の読み方と意味

(第242号、通巻262号) 前回取り上げた「ゆきあいの空」は秋の季語にはなっていないようだが、「野分」は代表的な秋の季語である。この語を私が知ったのは、たぶん夏目漱石の小説の題名『野分』からだったと思うが、明確に意識したのは高田三郎作曲の男声合…

「ゆきあいの空」

(第241号、通巻261号) 8月から9月へ。季節が移り変わろうとするころになると、その兆しは空の雲にもあらわれる。2週間ほど前の朝日新聞のコラム「天声人語」の一節に「雨のあと、高い天に刷(は)いたような雲が浮けば、夏と秋がすれ違う『ゆきあいの空…

「お袋の味」の「袋」とは

(第240号、通巻260号) 東日本大地震で家族の絆が見直されたせいか、今年のお盆は例年より帰省客が多かったという。久しぶりの故郷で「お袋の味」に舌鼓をうった人もまた多かったに違いない。ベストセラー『日本人の英語』(岩波新書)の著者、マーク・ピー…

「怒り心頭に発する」か「達する」か

(第239号、通巻259号) 東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市の松を薪にして京都の伝統行事「五山送り火」で燃やす計画が二転三転の末、京都市側が「薪から放射性物質が検出された」と受け入れ拒否を決めたことをめぐって陸前高田市側は「岩手が危ないと…