「誠心誠意」ではなくあえて「正心誠意」が野田流?

(第243号、通巻263号)
   
     野田首相は13日午後、就任後初の所信表明演説を行った。各紙の夕刊に演説要旨が予定稿で掲載されていたが、夜7時のNHKのテレビニュースで改めて所信表明の場面を見て「オヤッ、字が違う」と思った。政権運営の姿勢として首相が「正心誠意」という4文字を掲げた、とテロップに出たからだ。「誠心誠意」の間違いではないか、初歩的なミスだ、と頭から思いこんだ。
    
    しかし、テロップでは「正心誠意」の個所が他の文より少し目立つ表記になっていたのがちょっぴり気になった。夕食を中座して、いくつかの辞書を調べてみた。「正心誠意」という語は見当たらなかった。食事を終えた後、“調査”の範囲を広げ、他の国語辞典、漢和辞典や名言辞典の類からウエブサイトまで探索を続けた。辞書類には載っていなかった。ただ、ウエブサイトに参考になる記事があり、それを手がかりに事典・辞書を引き比べた。その結果、「正心誠意」という表現は、幕末、江戸城無血開城を果たした勝海舟の談話集『氷川清話』にある「政治の秘訣は正心誠意」から取った言葉だと知った。
    
    もっとさかのぼれば、中国の古典『大学』にある「正心誠意格物致知(心を正し、意を誠にすれば、物にいたりて、知を致す)」という説も見かけたが、浅学非才の身には判じかねる。いずれにしろ、野田首相の「正心誠意」という言葉もテレビのテロップも間違いではなかった。
    
    首相がこの表現を使ったのは、所信表明演説の冒頭だった。「政治に求められるのは、いつの世も『正心誠意』の4文字があるのみです。意を誠にして、自らの心を正す。私は国民の皆さまの声に耳を傾けながら、政治家としての良心に忠実に、国難に立ち向かう重責を果たしていく決意です」。
    
    「正心誠意」は意味としては「誠心誠意」と同じく、真心を込めて、ということのようだ。低姿勢は野田流でいいとしても、演説に具体策が見えない、との批判もある。問われるのはしかし、「真心を込めて」これから行っていく結果だ。