2012-01-01から1年間の記事一覧

インクとインキ

(第309号、通巻329号) 年賀状書きと言うと、一昔前までは版画を彫ったり、プリントゴッコで印刷したりしたものが多かったが、昨今はパソコン作成が主流になった観がある。年賀用の官製はがき(郵政公社製)でも普通の用紙とは別にパソコンのプリンターで使…

「金の草鞋」で尋ねる

(第308号、通巻328号) 2012年の世相を表す「今年の漢字」の1位にランクされたのは「金」だった。公募した日本漢字能力検定協会によると、日本人選手の金メダルが相次いだロンドン五輪や東京スカイツリーの開業、山中伸弥教授のノーベル賞受賞など「多くの…

誤用とは気づきにくい言葉の数々

(第307号、通巻327号) 12月も半ばになれば、歳末商戦も本格化する。デパート、スーパー、コンビニ、小売店にとっては「かきいれどき」だ――こうワープロソフトで打つと「書き入れ時」と変換された。おやっ、「掻き入れ時」が正しいはずなのにおかしい、と思…

「大きい顔」と「大きな顔」の違い

(第306号、通巻326号) 前号の11月28日付けの「違くない、好きくない」は、当ブログ開設以来最大の反響があった。コメントも、これまでにないほど多数寄せられた。その中の一つに「“大きい”と“大きな”は、元々は別の単語だったのか」という質問があった。 …

「違くない」「好きくない」。動詞の形容詞化の兆し

(第305号、通巻325号) 「ちがくない」、「すきくない」。こんな妙な言い方を耳にするようになったのはいつごろからだろうか。若者たちの間ではすでに20年ほど前から使われていた、と言う人もいる。一時的なハヤリとは言えない。日本語文法の変化の兆候の一…

「すごい速い」。辞書のスピードにびっくり

(第304号、通巻324号) 先日、囲碁の同好の士と熱海に一泊してJR東海道線で大船に帰る途中、「快速だと、すごい速いね」という若者の言葉が耳に入った。各駅停車なら1時間と少しかかるのに、乗ったのが快速アクティだったので、ちょっぴりはやく55分で着い…

「政局になる」という新用法、辞書も追認

(第303号、通巻323号) 今冬の木枯らし1号は、関東地方ではまだ吹いていない。が、東京・永田町には先週なかばから「解散風」が吹き始め、日ごとに強まっている。前回のブログで取り上げた「近いうち」が現実化してきたようだ。このような情勢が永田町用語…

「近いうちに」とはどのくらいの期間か

(第302号、通巻322号) 今から45年前の11月、沖縄返還交渉で返還の期日決定をめぐり、「両3年以内」《注1》という表現の意味について激論が交わされたことがあった。時間の経過に関する言葉は、文脈、感情、心理、思惑などが交錯し、解釈が難しいことが多…

鷲は鷹と違うのか?

(第301号、通巻321号) 英国の作家、マリ・デイヴィスの小説に「鷲の巣を撃て」 (二見文庫、ザ・ミステリ・コレクション)がある。英国の特殊工作部隊がナチス・ドイツのヒトラーの暗殺を企てるという筋書きで、史実にフィクションを巧みに織り交ぜた傑作と…

中欧の秋は「紅葉」より「黄葉」が中心だったが……

(第300号、通巻320号) 「今はもう秋 誰もいない海……」。秋になるとつい口ずさんでしまう曲の一つだが、童謡・唱歌だと「紅葉(もみじ)」か「虫のこえ」も欠かせない。今回は中欧周遊の旅にからめて話題を「紅葉」にしぼろう。 秋の夕日に照る山もみじ 濃…

「ドナウの真珠」「百塔の街」「北のローマ」…… 

(第299号、通巻319号) 中欧の観光旅行から帰りましたので、約2週間ぶりにブログを再開します。横浜の自宅を留守の間にも、アクセス数100万pv.突破に対するお祝いのメールやコメントをいただきました。お褒めばかりでなく、私の使用辞書の選択について疑問…

アクセス100万pv突破のお礼と一時休載のお断り

(第298号、通巻318号) 当ブログ「言語郎」は9月27日午後にアクセス数が100万pv.を超えました。2007年1月10日付けで実質的な第1号「武士の『一分』とは」を発信してから5年9カ月。この間、(イタリア旅行に出かけて休載した1回を除いて)毎週1回、水…

「うがった見方」とは

(第297号、通巻317号) うがった見方をすると、文化庁の国語世論調査の対象になった単語について当の文化庁の担当職員も“正解”の意味で使っている人はきわめて少ないと思う。 文化庁が平成7年度(1995年度)からは毎年行っている「国語に関する世論調査」…

「コスモス」。花と宇宙

(第296号、通巻316号) 年間を通して気温が低い故郷の釧路は、桜(ソメイヨシノ)の開花も関東地方より1カ月半から2カ月遅い。ところが、桜でも「秋桜(アキザクラ)」が咲くのは早い。私が9月始めに高校時代のクラス会で帰省した折には、街中のあちこち…

旅客機の出発時間とは離陸時間と違うのか

(第295号、通巻315号) 先週、故郷の霧の街・釧路へ高校時代のクラス会に出席のため出かけ、トンボ返りした。地元でガスと呼ぶ“海霧”《注1》で飛行機が欠航したり遅れることがたまにあるので、万一に備え、帰りは早めの便を予約していた。ところが、釧路市…

「汚名挽回」という用法も可、という説

(第294号、通巻314号) 「汚名挽回」という言い方は誤用ではない――。『明鏡国語辞典』(大修館書店)の編者グループが唱える説は、理論的には筋が通っている。同辞典編者の北原保雄氏のグループが執筆している単行本『問題な日本語』の小さなコラムで次のよ…

「汚名挽回」と「汚名返上」

(第293号、通巻313号) 先週のブログの末尾で予告したように今回は、「雪辱を晴らす」「雪辱を果たす」と似た用法の「汚名挽回」「汚名返上」を取り上げる。この2語のうち正しいのはもちろん2番目の「汚名返上」であり、「汚名挽回」は典型的な間違い・誤…

「雪辱を晴らす」は重言、正しくは「雪辱を果たす」

(第292号、通巻312号) ロンドン五輪後の余熱も、先日行われたメダリストたちの銀座パレードで一段落した感じだが、五輪に限らずスポーツや選挙など勝ち負けに関係する世界では「雪辱」という言葉がしばしば登場する。「北京五輪の雪辱を目指し、猛練習して…

辞書も追認「鳥肌が立つ」の新用法

(第291号、通巻311号) メダルラッシュに湧いたロンドン五輪が閉幕した。14日付けの朝日新聞の1面コラム、天声人語は「日本選手団のメダルは過去最多の38個。これにて彼らは重圧から、我らは寝不足から解放される」と書いた。まことに言い得て妙だ。 テレビ…

「馬鹿言うな」「馬鹿言え」否定形と肯定形

(第290号、通巻310号) 先週扱った「何気に」の同類の言葉に「さりげに」がある。本来なら「さりげない(く)」と言うべき言葉だ。漢字で書くと「然り気無い」。『明鏡国語辞典 第2版』(大修館書店)には「はっきりした考えや深い意図もなくふるまうさま…

「なにげに」気づいた「なにげない」新語法

(第289号、通巻309号) なにげなく(何気無く)テレビのスイッチを入れたら、ロンドン五輪の女子柔道57キロ級で松本薫選手が日本初の金メダルを取った場面だった――この文章の冒頭の「何気無く」の「無」を省いて「なにげ(何気)に」とした場合、少々違和感…

様々な感情表現

(第288号、通巻308号) 事実関係を第三者に伝えることよりも、感情・気持ちを表現することの方がはるかに難しい。だからなのか、文章が巧くなろうと思ったらラブレターを書く練習をたくさんするのが近道、という冗談めいた話もある。が、思いの丈を綿々とつ…

友の急逝を悼む

(第287号、通巻307号) 小説家や詩人は、「うれしい」とか「悲しい」とかの感情を表すのに、その形容詞を直接使わずに「うれしい」「悲しい」という気持ちをいかに表現するかに腐心するという。 職場時代、格別に親しかった同僚の一周忌を前にして仲間うち…

首相が使い分け?「声」と「音」

(第286号、通巻306号) ここ最近2、3代続いて首相の国語力が問題になったことがあった。その点、現在の野田首相は、弁舌には定評があり、内容はともかく、言葉遣いでこれまでは大きな間違いはなかった。しかし、先月29日夜、関西電力の大飯原発の再稼働反…

「うるう年」の「閏」の意味は?

(第285号、通巻305号) メディア論から江戸地理、天文学まで博覧強記の友人から「7月1日です。2012年も折り返し点。本当に時間の流れは速いですね。今年は2月29日がありました。そして本日うるう秒の1秒が加わりました。例年より1日と1秒長い筈なのですが…

「半夏生」と化粧

(第284号、通巻304号) 文は書き出しが難しい。 朝日新聞夕刊be面で狂言師の野村萬斎が「きょう.げん.き!!」という欄でエッセイを連載している。夏至の翌日の6月22日付けの見出しは「素顔でも美しく」で次のように書き始めている。 [ もうすぐ半夏生(は…

「水無月」の語源の思い込み

(第283号、通巻303号) 「五月晴れ」をテーマにした先週号のブログは、1週間のアクセスがあとほんのわずかで8000pv.に迫る勢いを見せ、最近では珍しい“ヒット”となったが、実は枝葉の部分で正確とは言えない書き飛ばしがあったので、補訂したい。 文の最後…

「五月晴れ」は6月の空のこと?!

(第282号、通巻302号) 関東甲信地方が梅雨入りした9日は、私の住む団地近くの小学校の運動会が開かれることになっていたが、雨で順延。翌10日は打って変わって朝から晴れ間が広がる運動会日和。まさに「五月(さつき)晴れ」だ。 しかし、今は6月。なの…

「慮る」は「おもんばかる」か「おもんぱかる」か

(第281号、通巻301号) なにかを計画する時に周囲との関係や将来への影響などを考え合わせることを「慮る」という。例えば「相手の立場を慮る」、「事態を慮る」などと使う。この「慮る」をどう発音するか。 「おもんばかる」。私自身は、そうとしか読みよ…

「生保」を「ナマポ」と読むなんて!

(第280号、通巻300号) 東京・秋葉原の街頭で若者たちに「生保」と書いた文字を見せ、どう読むかインタビューしているテレビ番組があった。ほんの数日前のことだ。途中から覗いたテレビだったので、番組の前後の流れが分からず、地名のテストかと勘違いして…