旅客機の出発時間とは離陸時間と違うのか

(第295号、通巻315号)

    先週、故郷の霧の街・釧路へ高校時代のクラス会に出席のため出かけ、トンボ返りした。地元でガスと呼ぶ“海霧”《注1》で飛行機が欠航したり遅れることがたまにあるので、万一に備え、帰りは早めの便を予約していた。ところが、釧路市内からリムジンバスで空港に着いてみると、海霧も出ていないのに羽田への出発時間が定刻より35分遅くに変更されていた。

    単に機材繰りがつかなかったためのようだが、ふと疑問がわいた。そもそも旅客機の発着時刻とは何を基準にしているのか。というのも、これまでの経験では、離陸が時刻表記載の出発時間通りだったことは一度もないからだ。10分前後遅れるのもまれではない。時刻表通りにプラットホームを離れて発車する列車とは大違いだ。

    同じような疑問を抱く利用者が多いとみえ、ネット上には様々な人からの質問が寄せられている。それに対する回答者の中には、次のようなクイズ形式で答えるサイト《注2》もある。
  1)飛行機が滑走路を飛び立つ時
  2)飛行機が止まっている位置から動き出す時刻
  3)搭乗ゲートを閉め切る時
  4)滑走路の端から走り始める時間

    私にとっては意外だったが、正解は、2)の「止まっている位置から動き出す時刻」だそうだ。

    『機長の700万マイル』(田口美貴夫著、講談社)などによれば、乗客が全員搭乗したのを確認して、ドアを閉める。そして管制塔に報告し、駐機場から動き出す許可を求める。その上で地上の整備士が飛行機の前輪の車止め(ブロック)をはずす。同時に機体はトーイング・カーと呼ばれる牽引車に押し出されバックする形で搭乗ゲートから離れて動き始める。これを「プッシュ・バック」といい、2)にあたる。つまり、飛行機の車輪が動き始める時間だ《注3》。

    到着時間は、出発時間と逆で、飛行機が地上に着陸して所定の位置に止まり、車輪が停止する時間を言う。普通はボーディングブリッジに着いた時。ボーディングブリッジを使わず、バスで空港ビルに向かう場合はバスのそばに着いた時を指すという。着陸に関しては“常識的”と思うが、出発の定義についてはいささか面食らった。出発時刻と離陸時刻とは異なるので、羽田などのように込み合う空港では、いざ機体が動き出しても実際に飛び上がるまでにはかなり待たされることがあり得るわけだ。


《注1》 霧は雲の一種で、気温や水蒸気の影響により様々な種類に分かれる。「たんちょう釧路空港」のホームページ(http://kushiro-airport.co.jp/p-mist/)によると、同空港に多く発生する霧は、暖かい湿った空気が海面に触れて冷やされた時の温度差によって生じる。このような霧を「海霧」(かいむ)と言う。この「海霧」は季節に関係なく発生するが、春先から夏にかけて多い。空港は海岸線から約6kmと海に近く、標高約90mの小高い丘陵地に、また東側は釧路湿原の一部で低湿地という場所に位置し、特にこの影響を強く受けている。

《注2》 ウエブサイト・RICOH Communication Club(http://www.rcc.ricohjapan.co.jp/rcc/breaktime/untiku/091117.html)

《注3》 車輪が動き出す時間をもって「出発時間」としている航空会社がほとんどだが、中には、英国のヴァージンアトランティック航空のように離陸時間を出発時間としている航空会社もあるという。