「コスモス」。花と宇宙

(第296号、通巻316号)

    年間を通して気温が低い故郷の釧路は、桜(ソメイヨシノ)の開花も関東地方より1カ月半から2カ月遅い。ところが、桜でも「秋桜(アキザクラ)」が咲くのは早い。私が9月始めに高校時代のクラス会で帰省した折には、街中のあちこちで花開いていた。「この時季に?」と一瞬、怪訝に思ったが、考えてみれば、寒冷地なのだから秋の訪れが早く、秋の花々が咲くのもまた関東地方より早いのは当然のことと気づいた。

    秋桜は、「コスモス」の和名である。と言っても、「秋桜」と書いて「コスモス」と読まれるようになったのは、さだまさし山口百恵のために作詞した歌がきっかけだ《注1》。それはともかくコスモスといえば、宇宙の意味もある。元来はギリシャ語だという。『日本国語大辞典』第2版(小学館)には、「ギリシア神話で、秩序整然とした調和ある世界。宇宙。秩序」を指す、とある《注2》。

    花の名としての意味は2番目に挙げられている。「キク科の一年草。メキシコ原産で、日本へは1877年(明治20年)ごろ渡来し、観賞用に広く栽培される。茎は直立して高さ1〜2メートルになる。葉は線形の裂片に細かく分かれた二回羽状で対生する。茎頂に、8個の舌状花と細い管状の中心花からなる径約6センチメートルの花が咲く」などと記されている。

    それにしても、宇宙・秩序という原義のコスモスがどうして花の名前になったのだろうか。数千年、数万年以上長い単位で見れば天空の様相も変化してきているが、個々の天体は秩序ある法則に基づいて運行している。花のコスモスも開花した姿は整然としていて美しい。生物の多様性・分類の研究者で、花についての啓蒙書も多い湯浅浩史氏は『花おりおり』(朝日新聞社)の著書の中で「語源はギリシャ語で『秩序』。そこから星が整然と座す『宇宙』や、『舌状花弁』が整斉と並ぶ花のコスモスに(なったのだろう)」と述べている《注3》。

    強い秋風に揺れながらもしなやかに咲くコスモス。霧の街・釧路によく似合うといえば、ひいきの引き倒しになりかねないが、冗談はともかく、とても南米原産とは思えないほど日本の秋にとけ込んだ花である。


《注1》 1977年(昭和52年)リリース。元々は「小春日和」というタイトルだったが、音楽プロデュサーの提案で「秋桜」に変わり、この曲の大ヒットで「コスモス」という読み方が広まった。
     歌詞の1行目「淡紅(うすべに)の秋桜が秋の日の 何気ない日溜まりに揺れている」の「秋桜」の個所が「コスモス」という発音で歌われているのである。

《注2》 対義語はカオス(混沌、無秩序)。

《注3》 “cosmos”の語源については、ブログに「takayanの雑記帳」という労作がある。その中の「コスモスの由来」編(http://neu101.seesaa.net/article/25336588.html)
に詳細な探求の成果が披露されている。知見にとみ、知的好奇心をくすぐる記述ぶりで一読に値する。