2011-01-01から1年間の記事一覧

「エン麦」は馬のエサか人間の主食か――辞書の個性

(第258号、通巻278号) テレビにならって当ブログも年末は、今年比較的評判のよかった作品を再録してお届けする。先週号までの流れから辞書の個性をテーマにしたブログを選んだ。 辞書の個性は、『新明解国語辞典』(三省堂)が山田忠雄編集主幹の主観を色…

続々「新解さん」――辞書選びの指標

(第257号、通巻277号) 辞書を比較する際に私がよく使う「右」という語を指標にして辞書の個性の違いを見てみよう。日本初の近代的な国語辞典・大槻文彦著『言海』(六合館)。明治37年2月発行の第1版では、「人ノ身ノ、南ヘ向ヒテ西ノ方。左ノ反(ウラ)…

続『新明解』最新版――辞書の個性

(第256号、通巻276号) オリンパスの損失隠し問題をめぐって第三者委員会が先週公表した報告書の中に、目を引く表現があった。問題の根源に「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成とも言うべき状態」があったと断罪したのである。 前回のブログで『新明解…

『新明解国語辞典』最新版――変わらぬ個性的な語釈 

(第255号、通巻275号) 三省堂の『新明解国語辞典』は、辞書好きの間では「新解さん」(以下、「新明解」と略)の愛称で知られる《注1》。その第7版が「本日発売」と12月1日付けの朝日新聞朝刊に全面広告で掲載された。「日本で一番売れている国語辞典」…

「間人」と書いて何と読むか 

(第254号、通巻274号) 前号に引き続き漢字の読み方について。「人間」という2文字の順序を逆にして「間人」《注1》と書けば何と読むかご存じだろうか。京都など近畿方面の旅から戻り、最寄り駅に降り立って帰宅途中の知人とばったり出会った際、挨拶がて…

呉音は柔らかく、漢音は硬い

(第253号、通巻273号) 今年の文化勲章受章者の1人、作家の丸谷才一氏が岩波書店の『図書』11月号「無地のネクタイ18」に「呉音と漢音」と題してこんな話を書いている。「中学1年生のころ、呉音と漢音のことが気になって仕方がなかった。同じ『今』でも古…

続「七つの子」の歌詞の謎

(第252号、通巻272号) 童謡「七つの子」は、「7歳のカラス」の意か「7羽のカラス」の意か。前回のブログで両説を紹介した後、実はこれ以外に興味深い異説がある、と思わせぶりに文を結んだ。今回は、七つの子の歌詞の謎について、いわば「第三の解釈」を…

カラスの「七つの子」は7歳か7羽か、それとも……

(第251号、通巻271号) これまで3回続けた童謡「赤とんぼ」の次は「カラス」。ブログに対するご意見、コメントの中に「童謡の世界には動物を擬人化した歌詞も多い」と指摘して「七つの子」を挙げ、「ところで七つの子とは、7歳の子なのか7羽の子なのか……

続々「赤とんぼ」。「お里のたより」とは何を指すのか

(第250号、通巻270号) 童謡「赤とんぼ」の謎をめぐるブログの3回目。「十五で姐やは嫁にゆき お里のたよりも絶えはてた」という3番の歌詞の中の「お里のたより」については諸説がある。1)「お里」は、姐さん、つまり子守り娘の実家(生家)のこと。ま…

続「赤とんぼ」。歌詞の謎

(第249号、通巻269号) 「赤とんぼ」を子どもの頃、口ずさんでいて分からなかったのは1番の歌詞の「おわれてみたのは」の「おわれて」だった、という人が少なくない。漢字で「負われて」とあれば、誤解は避けられるが、耳から聴いただけでは「追われて」と…

イ・ムジチ演奏の「赤とんぼ」を聴いて

(第248号、通巻268号) 先だっての日曜日、横浜みなとみらいホールで結成60周年ツアーと銘打って来日中のイ・ムジチ合奏団のコンサートを聴いた。イ・ムジチと言えばビバルディの「四季」が定番中の定番の曲目。相変わらず流麗な演奏を披露してくれた。プロ…

「出精値引き」とは

(第247号、通巻267号) 自分の住む団地内の施設の修繕工事をめぐる契約交渉で、「しゅっせいねびき」と耳にした時は、「出世払い」の聞き間違いかと一瞬思った。その場の状況と話の流れからすぐに意味はおおよそ推測できたが、「しゅっせい」とはどんな字を…

「到来物」…。向田邦子に見る懐かしい日本語

(第246号、通巻266号) 9月21日号のブログで向田邦子の作品を取り上げ、「人気」という2文字の読み方は4通りもある、と自説を披瀝したが、それを題材したのはそもそも彼女の巧みな言葉遣いを紹介することにあった。今ではあまり使われなくなった言葉、あ…

友の死に天も「慟哭」

(第245号、通巻265号) 今月7日付けの当ブログで「野分」の読み方を取り上げた。その中で作家の井上靖が自作の散文詩を解説した際、「野分」を「いわば季節の慟哭(どうこく)とでも名付くべき風」と表現している、と紹介した。 そう書いた2週間後の21日…

4通りもある「人気」の読み方と意味の違い

(第244号、通巻264号) 文中に「人気」という2文字を目にしたらごく自然に「にんき」と読む。ただ、文脈によっては「人気のない境内」などのように「ひとけ」と読む場合もある。しかし、「じんき」という読み方までは思い至らなかった。 昭和半ばころの、…

「誠心誠意」ではなくあえて「正心誠意」が野田流?

(第243号、通巻263号) 野田首相は13日午後、就任後初の所信表明演説を行った。各紙の夕刊に演説要旨が予定稿で掲載されていたが、夜7時のNHKのテレビニュースで改めて所信表明の場面を見て「オヤッ、字が違う」と思った。政権運営の姿勢として首相が「…

「野分」の読み方と意味

(第242号、通巻262号) 前回取り上げた「ゆきあいの空」は秋の季語にはなっていないようだが、「野分」は代表的な秋の季語である。この語を私が知ったのは、たぶん夏目漱石の小説の題名『野分』からだったと思うが、明確に意識したのは高田三郎作曲の男声合…

「ゆきあいの空」

(第241号、通巻261号) 8月から9月へ。季節が移り変わろうとするころになると、その兆しは空の雲にもあらわれる。2週間ほど前の朝日新聞のコラム「天声人語」の一節に「雨のあと、高い天に刷(は)いたような雲が浮けば、夏と秋がすれ違う『ゆきあいの空…

「お袋の味」の「袋」とは

(第240号、通巻260号) 東日本大地震で家族の絆が見直されたせいか、今年のお盆は例年より帰省客が多かったという。久しぶりの故郷で「お袋の味」に舌鼓をうった人もまた多かったに違いない。ベストセラー『日本人の英語』(岩波新書)の著者、マーク・ピー…

「怒り心頭に発する」か「達する」か

(第239号、通巻259号) 東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市の松を薪にして京都の伝統行事「五山送り火」で燃やす計画が二転三転の末、京都市側が「薪から放射性物質が検出された」と受け入れ拒否を決めたことをめぐって陸前高田市側は「岩手が危ないと…

「魂柱」のない内閣

(第238号、通巻258号) 「たましい」に「はしら」、「魂柱」と書いて「こんちゅう」と読む。この言葉を知ったのは、7日に放映されたテレビ朝日の『題名のない音楽会』を通じてだ。司会はいつもの佐渡裕。今をときめく名指揮者の解説とゲストとのトークをま…

「蛍の光」の原曲は別れの歌ではない

(第237号、通巻257号) かつては「仰げば尊し」と並んで卒業式の定番だった「蛍の光」は、一般にはスコットランド民謡とされる《注1》。本場・英国エディンバラの聖メアリー大聖堂音楽隊が歌う「蛍の光」を先日初めて聴いた《注2》。東京は六本木のサント…

「順延」と「延期」の違い

(第236号、通巻256号) 子供たちが夏休みに入ると、スポーツ大会や盆踊り、花火大会など様々な行事がある。気になるのは、悪天候などの時の日程変更である。 花火大会が23日(土)に予定されていたとする。大会予告のポスターには、日付の横に(雨天順延)…

「ストレステスト」とは何ぞや

(第235号、通巻255号) このところ、原子力発電所の再稼働にからんで「ストレステスト」なる言葉がマスコミにしばしば登場する。7月6日に菅首相が衆院予算委員会で、九州電力玄海原発を始めとする原発再稼働について「ストレステストを含めたルールでチェ…

「エンスト」はエンジンストップの略じゃなかった

(第234号、通巻254号) 思い込みによる言葉の間違いは、辞書編纂(へんさん)者も凡人と同じように犯すことがあるようだ。 エンスト。意図しない所で不意に車のエンジンがストップしてしまうこと。この語は、エンジン・ストップ(engine stop)という英語を…

かりゆし、京都、アロハシャツ

(第233号、通巻253号) 「かりゆし」、「京都」、「アロハシャツ」。こう並べると、なにやら三題噺(さんだいばなし)めくが、共通項がある。 「かりゆし」は沖縄の言葉で「めでたいこと」「縁起がいいこと」「自然との調和」というのが元々の意味だという…

「雨天の友」はいずこ?

(第232号、通巻252号) 雨天の合間に陽が射す時はあるものの、まだ梅雨は明けていない。21日には、東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方が梅雨入りした。シトシト降るだけでなく、時には豪雨となる。九州などでは、土砂崩れなどの災害を引き起こしてい…

「朝イチ」から派生した「午後イチ」

(第231号、通巻251号) 「朝イチ」と言っても、ここでいうのは「朝市」のことではない。「新システムの打ち合わせは、明日、朝一(あさいち)でやろう」。「朝一で仕入れに行く」。職場でよく交わされる会話だろう。朝起きてすぐ、あるいは出勤して最初に行…

「一定のメド」の意味のあいまいさ

(第230号、通巻250号) 菅首相が今月2日の民主党代議士会で述べた「一定のメド」発言が、首相の退陣時期がいつかという問題と連動して波紋を広げている。もう少し詳しく言うと「大震災対応に一定のメドがついた段階で若い世代に責任を引き継いでもらう」と…

「梅雨模様」とは

(第229号、通巻249号) 関東甲信と東海地方が昨年より17日も早く、5月27日に梅雨入りした。5月下旬のぐずついた天気に「梅雨にしては時季が早すぎるが、なんとなく梅雨模様だ」との感じを抱いていた人も多いのではないか。 「梅雨模様」。この季節になれ…