「梅雨模様」とは

(第229号、通巻249号)  
    
    関東甲信と東海地方が昨年より17日も早く、5月27日に梅雨入りした。5月下旬のぐずついた天気に「梅雨にしては時季が早すぎるが、なんとなく梅雨模様だ」との感じを抱いていた人も多いのではないか。
    
    「梅雨模様」。この季節になれば、しばしば用いられる言葉だが、意外にも普通の国語辞典には載っていない。私が当ブログでよく引用する『明鏡国語辞典 第2版』(大修館書店)にも『新明解国語辞典』第6版(三省堂)にも見あたらない。『広辞苑』にも収録されていない。となれば、言葉として認知されていないのだろうか。しかし、現実には――googleで「梅雨模様とは」で検索するとなんと32万3000件もヒットするのである。
    
    辞書の範囲を広げて普段あまり使わない『日本国語大辞典』第2版(小学館)の電子版にあたってみてようやく見つけた。「梅雨模様 梅雨期のような感じのする天気」とあり、大正期の文学作品からの「梅雨模様の湿っぽい夜の空気に触れて」という文例が添えられていた。
   
     ただよく考えてみると、「梅雨模様の天気」は梅雨に入ってから期間のことを指すのか、梅雨が現に降っている時のことをいみするのか、あいまいな感じが残る。名詞+模様、という連語は単純に割り切れないところがある。
    
    3年前の当ブログ(2008年2月20日号)で「『雨模様』とは、雨が降っているのか、いないのか」と題して取り上げた際の内容をかいつまんで紹介しよう。
   
     [雨模様とは、どんよりと曇って、雨が降り出しそうな空の様子。つまりまだ雨は降っていない状態を指すのが一般的な解釈だが、近年は、雨が降ったりやんだりすること、との語義を認める辞書も出てきた。NHK放送文化研究所編の『つかいこなせば豊かな日本語』(NHK出版)によれば、「“もよう”は、和語の“催い(もよい)”が変化したもので、“〜となりそうな状態”の時に用いるのが本来の用法だが、今では、すでに小雨が降っている場合にも放送で使っている。意味があいまいで解釈が分かれる表現なので、天気予報では使わない」という]。
    
    それに加えて、第3の語義として「他の地の雨天を推測して言う語」を挙げ、「今ごろ山あいは雨模様だろう」との文例を添えた辞書も登場している(『明鏡国語辞典』)。たしかに、そんな使い方をする時もあるが、「梅雨模様」に合わない。「今ごろ山あいは梅雨模様だろう」ではなんとも不自然な日本語だ。