言葉を逆さに見る「逆引き辞典」

(第274号、通巻294号)
        
    辞書マニアを自称する私の部屋の書棚には、何十冊かの辞書、辞典・事典があるが、長い間ほとんど開いたことのない種類の辞書が奥に押し込められたままになっている。その名は「逆引き辞典」。

    辞書の見出しは、国語辞典なら、頭から読んで「五十音順」(アイウエオ順)、欧米語ならABC順に並んでいるが、逆引き辞典は、言葉の後ろ、つまり末尾からアイウエオ順に掲載されている。といっても、分かりにくいだろうから、「さくら」を例に取って説明しよう。(ざくら、と濁る場合も含めて)

    つまり、「しだれ桜」とか「左近の桜」とか、あるいは地名の「佐倉」とか、とにかく、語尾がサクラという音で終わる言葉の一群をズラリ並べて一覧できるのである。「サクラ」だけなら普通の国語辞典ですぐ引けるが、「〜サクラ」となると、国語辞典ではお手上げだ。ところが、逆引き辞典だと、下に「サクラ」と付く単語がずらりと並んで出てくる。それどころか、「サ」を抜いて「クラ」で終わる言葉だけでもたちどころにピックアップできる《注》。

    岩波書店の『逆引き広辞苑』(1992年11月)が刊行された当時の宣伝用の帯によれば、「『かい(貝)』はイカの位置で引くが、160を超える『○○貝』が勢揃い。日本語研究の一級資料」。

    意味を調べる国語辞典ではないので、語義は載っていないが、語呂合わせや、しゃれ、キャッチフレーズづくり、クロスワードパズルなどの言葉遊びには格好の参考書になる。ただ、冒頭に、私自身長いこと使ったことがないことを白状したように、よほど慣れないと引きこなすのが難しい。
   
    電子書籍の長所は百科事典の検索機能だけにあるのではない、と前号で述べた。ある項目から別の項目のページに飛ぶだけでなく、違う単語同士に含まれる共通の文字列も検索できるところが面白い。辞書については、これまでも「辞書の個性」などのタイトルで紹介してきたが、これから時々、辞書の一風変わった使い方や類語辞典などについても雑談的に書きつづってみたい。


《注》 今回のブログで例に挙げた『逆引き広辞苑』は、書籍版だが、電子版の『広辞苑』でも似たような検索ができるので、試しにやってみたところ、末尾が「クラ」の語が「草枕」「山上憶良」「夢枕」「イクラ」など317件出てきた。