2008-01-01から1年間の記事一覧

「除夜」と「元旦」をまたぐ12時

(第104号、通巻124号) きょうは12月31日。大晦日の夜の12時は2008年(平成20年)に属するのか、それとも2009年(平成21年)になるのだろうかと、ふと疑問に思った。大げさに言うと、「除夜(大晦日の夜)」と「元旦(元日の朝)」をまたぐ「12時」または「…

『ビルマの竪琴』と言えば「埴生の宿」

(第103号、通巻123号) 19日付けの東京新聞朝刊の訃報欄に「中村一雄氏」という名前が載っていた。見出しなしの扱いなので名前だけではどんな人なのか分からなかったが、短い記事の後半に「ビルマの竪琴の主人公・水島上等兵のモデル」とあった。1日遅れの…

「極月」と「月極」駐車場

(第102号、通巻122号) 師走。12月も半ばを過ぎると気ぜわしくなる。本と書類で乱雑になった部屋の片付け、デジカメ写真や原稿の整理、そして年賀状書き……。12月の異称として、経をあげるため師僧が東西を馳(は)せるほど忙しくなることから「師馳(シハセ…

「年俸(ねんぽう)」は「年棒」ではない

(第101号、通巻121号) 大リーグなどプロスポーツ選手の移籍や契約更改のニュースで「年俸」の額がよく話題になる。野球のことを中国語で「棒球」というらしいが、イチローも松井秀喜も「打棒」の報酬として貰うのは「棒」(木片、バット)ではなく「俸」(…

「なおざり」の語義を「おざなり」に済ますな国語辞典  

(第100号、通巻120号) 毎週水曜日に更新している当ブログ「言語楼」は昨年1月10日に「衣替え」して以来、今回で100号を迎えた。せめて節目の号ぐらい「おざなり」な内容でお茶を濁さないようしっかり準備するつもりでいたのだが、このところの忙しさに追…

「一段落」の正しい読み方

(第99号、通巻119号) 11月22日の夜7時のNHKテレビのニュースを見ていたら、元厚生次官宅連続襲撃事件にからんだニュースの中でアナウンサーが「〜が一段落したら」という個所を「ひとだんらく」と読むのを耳にした。「普通は〈いちだんらく〉と発音するの…

「未曾有」を「みぞうゆう」と読む“麻生ism”と“Bush語法”

(第98号、通巻118号) レイムダックのブッシュ米大統領と就任間もないのにダッチロールを続ける我が日本の麻生首相。2人とも世襲政治家同士だが、もう一つ意外な共通点があった。「国語力」の問題である。 ブッシュ大統領は、就任前から言葉をよく間違える…

「寛解」とはどんな意味?難解な医療用語の数々

(第97号、通巻117号) 病気のデパート、を自称している私は毎朝、薬を6種類飲んでいる。毎食後にも2種類服用している。何回かに分けて薬を飲むことを「分服」というのだそうだ(三省堂『新明解国語辞典』)。これは、先頃発表された「難解な医療用語の言…

辞書の「誤謬」(一部改訂版)

(第96号、通巻116号) このブログを書く際、常に手元に欠かせないのは辞書類だ。毎回、少なくとも数種類の辞典、事典を参考にする。 文字や意味を調べるのに頼りになる辞書だが、絶対視すべきではない。言葉足らずの説明や肝心の語釈の間違い、まれには誤植…

「団塊の世代」の「団塊」読み間違い

(第95号、通巻115号) 「団塊の世代」の大量定年退職が始まったのは昨年からだ。この第一波がおとずれる何年も前から「団塊の世代」の退職は大きな社会問題としてクローズアップされ、マスコミに毎日のように登場しているので、読み間違えるケースはまれだ…

「消耗」の読みは「しょうこう」か「しょうもう」か

(第94号、通巻114号) 前号で「ちょっと」という単語を題材に日本語を学ぶ外国人にはなかなか理解しにくい言葉の多義性について述べたが、意味はともかく漢字の読み方については日本人にとってもかなりやっかいなものがある。中には、誤読や慣用読みがいつ…

「ちょっと」の意味は一言ではちょっと言い尽くせない

(第93号、通巻113号) ノーベル物理学賞受賞が決まった南部陽一郎氏は、一連のノーベル賞関連記事の中の一つで、共同通信のインタビューに「(候補として注目されるのが)毎年のことで期待していなかった。ちょっと驚いた。大変光栄です」と喜びを語った、…

「偽悪家ぶる」は「悪者ぶる」とどう違うのか

(第92号、通巻112号) 麻生内閣が発足する当日の9月24日付け毎日新聞朝刊のコラム「つむじ風」。「ぶら下がりの虚像」と題した記事の前振りに、こんな「麻生像」が載った。 「今日、首相に選出される麻生太郎氏は、心を許した相手には『とてつもない金持ち…

「確信犯」の使い方に「確信」を持てるか

(第91号、通巻111号) 「確信犯」という言葉は誤用されることが多いと言われるが、「正用」との線引きが難しい。意味が微妙で使い方がきわめて幅広く、一筋縄ではいかない言葉だからだ。それでいて、会話でも、書き言葉でもよく使われる。ごく最近の例では…

たかが「本」、されど「本」――鉛筆から論文まで守備範囲広い助数詞

(第90号、通巻110号) 台風一過の翌日はサーファーにとって絶好の波乗り日である。関東地方を直撃するかと思われていた台風13号が上陸せず通過した先週末、湘南海岸は大勢のサーファーで賑わった。新聞に載った航空写真を見ると、海岸線に平行してほぼ一直…

ビール、「まかれちゃった」とは誰がこぼしたことなのか?

(第89号、通巻109号) 北海道弁を扱った前回のエントリーは、予想だにしなかった大きな反響があり、貴重な指摘もいくつかいただいた。方言といえば、ふつう話題になるのは、語彙を中心に共通語とのイントネーション、アクセントの違いだが、今回は視点を変…

ビールを「まかす」なんて「いたましくないのか」道産子

(第88号、通巻108号) 4年に1回開かれる高校時代のクラス会に参加するため札幌に行った折、生の北海道弁を久しぶりにたっぷり聞いてきた。 香港から駆けつけたある級友は、「もう十数年も暮らしている香港では自宅を一歩出たら英語か中国語の生活なので、…

クラス会で「お目もじ」がかなえば

(第87号、通巻107号) 猛暑が一服した8月下旬、ある人気ブログのコメント仲間数人にパソコンのDTP(卓上編集ソフト)の使い方を手ほどきする機会があった。翌日、そのうちの1人の中年の女性からお礼のEメールが届いた。 「(昨日は)なんだか子供に戻った…

「よりハヤく」。音楽家の言葉

(第86号、通巻106号) 北京オリンピックが終わった。「より速く、より高く、より強く」。このオリンピックの標語のうち「速く」にからめて、前号で題材に借りた指揮者・岩城宏之の『指揮のおけいこ』(文春文庫)の一部を再び取りあげてみたい。 同書には言…

褒め言葉、感動表現がいつも「すごい!」とは

(第85号、通巻105号) 定年後の「第二の職場」で先輩の1人が、新聞の読者欄のある投稿記事《注1》をコピーに取りながら「近頃の人の語感はどうなっているのか」と嘆いていた。コピーしていたのは「『すごい』って 言い過ぎでは」という見出しのついた一文…

「悪びれる」様子もなく

(第84号、通巻104号) 正統的な意味からすると、間違った用い方をしているのに、文脈上はそれなりに通じる言葉がある。例えば「悪びれない」という語。 犯罪報道の記事などで「容疑者は、大勢のやじうまの見守る中、悪びれた様子もなく警察署に連行された」…

「閑話休題」。さて、ところで…

(第83号、通巻103号) 本来の意味と逆に取られることの多い慣用句として「情けは人の為ならず」とか「流れに棹さす」、「気が置けない」などがしばしば例に挙げられるが、「閑話休題」も誤用されているとは思いもよらなかった。 この言葉は、文章や講演など…

議論が「煮詰まる」と結論はどうなる?

(第82号、通巻102号) 今月25日の朝刊各紙に文化庁の「国語に関する世論調査(平成19年度)」の結果《注》が掲載された。調査対象に挙げられた慣用句の中には当ブログですでに取り上げたもの(「話のさわり」「憮然」「檄を飛ばす」)もあるが、今回は新た…

「湯を沸かす」は「重言」か

(第81号、通巻101号) 「いちばん最初」などの「重言」を扱った前回のブログも予想外に反響が大きく、1週間当たりのアクセス数が2週続けて2000を超えた。メールなどで重言の具体例もいくつか寄せられた。そのうちの一部を紹介して「重言」(じゅうげんor…

「いちばん最初」などという「重言」の二面性

(第80号、通巻100号) 前回取り上げた「真逆」の「真」は、強調の意に用いられる接頭語だと解釈できるが、「重言(じゅうげんorじゅうごん)」とされる言葉の中にも強調するためにあえて使われるケースがある。「いちばん最初に」、「今の現状」、「まだ時…

「真逆」とは言い得て妙?!

(第79号、通巻99号) 「心に残る日本の歌」という惹句にひかれて先週金曜夜、テレビ東京のバラエティ番組を見ていたら、司会者の女性が、ある歌と別の歌との曲想の違いを言うのに「まぎゃく」という“新語”を口にした。漢字で表記すれば「真逆」。この言い方…

今度の新顔は「文頭の“ハ”」

(第78号、通巻98号) 「文頭ナノデ」に違和感を覚えるかおぼえるかどうか。前回取り上げたテーマについて「第二の職場」で雑談していたら、はるか年下の女性職員が「今の若い人たちの間では、ナノデどころか“……は”と、いきなり“は”で始める言い方さえある」…

「なので」といきなり言われると「わたし的には」違和感を覚える

(第77号、通巻97号) 前回取り上げた「わたし的には」のほかにも最近気になる言葉遣いがある。「文頭のナノデ」とでも呼ぶべき用法だ。例を挙げれば、「このところ、とても忙しいんです。なので、ちょっと予定が立てにくいんです」、「昨日は仕事が休みでし…

「わたし的には」は、もはや公的に認知?

(第76号、通巻96号) 近頃気になる言葉遣いの一つに「わたし的には」(「ぼく的には」)がある。「私としてはそう考えます」、あるいは単に「私はそう思います」と言うべきところを、「わたし的にはそう思います」という形で表現する。 この用法、「〜のほ…

囲碁と格言

(第75号、通巻95号) この4月からNHK教育テレビの囲碁番組でアメリカ生まれのプロ棋士、マイケル・レドモンド9段による新講座「基本は格言にあり」が始まった。囲碁には、格言、ことわざの類が際だって多い。「一目置く」や「布石」、「定石」、「岡目八目…