「未曾有」を「みぞうゆう」と読む“麻生ism”と“Bush語法”

(第98号、通巻118号)
    レイムダックのブッシュ米大統領と就任間もないのにダッチロールを続ける我が日本の麻生首相。2人とも世襲政治家同士だが、もう一つ意外な共通点があった。「国語力」の問題である。
    ブッシュ大統領は、就任前から言葉をよく間違えるので有名だった。初歩的な文法ミス、誤読、でたらめな発音……。同大統領の度重なる「間違い英語」発言集は何冊もの本になり、またインターネットにも専用ホームページ《注1》が設けられているほどだ。昨年9月には、こんなニュースが流れた。
 [ニューヨーク 26日 ロイター]ブッシュ米大統領が26日、当地の小学生を前に「子どもたちは結果が計測されている時には勉強する」などと演説した際、複数の子どもを意味する「チルドレン」を「チルドレンズ」と言い間違えた。
    日本人の中学生でも気付くような間違いだ。同大統領は、この演説の前日に国連総会で一般演説を行ったが、その演説草稿には、国名や人名などを間違わないよう「発音記号」、言ってみれば振り仮名がつけられていたことが明るみに出た。用意していた草稿が誤って国連のウェブサイトに一時掲載されてしまったことから発覚した、といわれる。
    ブッシュ大統領ならではの言葉の間違いを“Bushism”という。日本語にも堪能なマーク・ピーターセン明治大学教授が日本語で書いた『英語の壁』(文春新書)によれば、「多くの人はこれを『ブッシュ主義』と誤解するかもしれないが、実は、“〜ism”は、言語関係にも頻繁に使われている。たとえば、Briticism(イギリス英語特有の語・語法)や、aphorism(格言)、witticism(警句)、malapropism(言葉のこっけいな誤用)などがある」と説明し、皮肉たっぷりにBushismの実例をいくつも紹介している。
    “Bushism”とは「ブッシュ流語法」とでも訳したいところだが、間違い英語である。そのまま使っては恥をかく。
    ところで、マーク・ピーターセン教授の上述の引用文の中で「頻繁」という語が斜体になっているのにお気づきだろうか。もちろん、教授は「ひんぱん」と読ませるつもりで書いたに違いないが、今月13日付けの朝刊各紙が伝えたところによると、麻生首相は、母校の学習院大学で行われた日中交流行事の挨拶で「1年のうちにこれだけ頻繁に両首脳が往来したのは例がない」という原稿の「頻繁」を「はんざつ」と読み間違えた。
    この類(たぐい)のミスは誰しも覚えがあるだろうし、あるいは「頻繁」を「煩雑」と単純に見誤った可能性もある。ただ、問題はそれだけではなかった。「(四川省の大地震は)『みぞうゆう』の自然災害」と発言したという。「未曾有(みぞう)」を間違えたのである。さらに、その数日前の参院本会議の答弁で「村山首相談話を『踏襲(とうしゅう)』する」と言うべきところをなんと「ふしゅう」と誤読した《注2》というのだからあきれる。
    “Bushism”のデンでいえば、「麻生ism」とでも命名すべきかもしれない。実際、麻生首相の言葉の間違いはブッシュ大統領ほどではないものの、結構多いのである。フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』《注3》によれば、「破綻(はたん)」を「はじょう」、「詳細(しょうさい)」を「ようさい」、「思惑(おもわく)」を「しわく」、「順風満帆(じゅんぷうまんぱん)」を「じゅんぷうまんぽ」などと読んだ例がある、という。  
    この「麻生ism」、驚いたことに教育行政のトップに立つ塩谷文科相も‘踏襲’したらしく、今月初めの文化功労者顕彰式で「類(たぐい)まれな功績」と言うべきところを「るいまれな」と挨拶したそうだ。「類(るい)は友を呼ぶ」わけか。

《注1》 “The Complete Bushisms”(http://www.slate.com/id/76886/

《注2》 麻生首相は、「踏襲」は「ふしゅう」と読むものと刷り込まれているようで、11月11日付けの朝日新聞によれば、10月15日の参院予算委員会でも、慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めた93年の河野官房長官談話を「ふしゅう」する、と答弁。外相時代の昨年も、河野談話を「ふしゅう」する、と答えている。

《注3》 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%BB%E7%94%9F%E5%A4%AA%E9%83%8E