2007-01-01から1年間の記事一覧

『ダカーポ』 休刊 

(第51号、通巻71号) マガジンハウス社の情報誌『ダカーポ』が今月上旬発売の通巻620号を最後に「休刊」した。記念すべき号を求めるべく近所の書店を回ったが、どこも品切れ。半ばあきらめかけた時に穴場を思いついた。団地の中のコンビニ店の雑誌の棚にあ…

「一衣帯水」は「いちい・たいすい」ではないが、しかし… 

(第50号、通巻70号) 30年近く前、中国の上海と北京に2、3週間出張したことがある。羽田−上海間は、空路でわずか3時間ほど、「一衣帯水」の地を実感したものだ。今は知る人も少なくなった華国鋒主席の時代である。男性はほとんどが青か濃紺の人民服を着て…

「一敗地に塗(まみ)れる」の正しい意味は

(第49号、通巻69号) 前週の「綺羅星の如く」では、読みの区切り方と意味の違いについて述べたが、今回取り上げる「一敗地に塗(まみ)れる」《注》は、読みの区切り方については、「一敗、地に塗れる」で紛れはあるまい。問題は意味である。 「一敗」には…

「綺羅(きら)星」という星はあるのか

(第48号、通巻68号) 「外野には『青バット』の大下弘。そしてベンチの知将、三原脩。そこに鋼の腕が加わる。野武士軍団のきら星が、男の子たちを午後の空き地に走らせた」。鉄腕投手と言われた稲尾和久さんの死を悼んだ11月14日付け朝日新聞朝刊の「天声人…

結婚式定番の讃美歌「いつくしみ深き」の「などかは」とは

(第47号、通巻67号) 「いつくしみ深き」で始まる讃美歌312番は、教会での結婚式の定番とも言える歌である。メロディーが、唱歌の『星の世界』や『星の界(よ)』と同じなので、クリスチャンでなくとも「ああ、あの曲か」と知っている人は多いはずだ《注1…

「木枯らし1号」はあるが「2号」「3号」はない

(第46号、通巻66号) 春先に最初に吹く強風を「春一番」というのに対して、冬の訪れを告げる強風は「木枯らし1号」。「一番」ではなく、なぜか「1号」という。今年の「木枯らし1号」は、東京地方、近畿地方とも3日前の11月18日に観測された。東京は昨年より…

ハリウッドを「聖林」と書くのは誤訳

(第45号、通巻65号) 11月も半ばになると、師走商戦をあおるようにクリスマス・ソングが聞こえてくる。つい、「聖夜」という言葉が思い浮かぶ。その連想で次に出てくる言葉がなぜか「聖林」だ。映画の都と言われた米国のハリウッドを指す当て字である。 近…

『広辞苑』の「来し方行く末」(その2) 

(第44号、通巻64号) 「来し方行く末」の読みが「こしかた」と「きしかた」でどう意味が違うのか。仮に同じだとしたら、どちらの読みが正統、あるいは一般的なのか。こうした疑問については、『広辞苑』以外の国語辞書も実は明確に説明しておらず、扱い方は…

『広辞苑』の「来し方行く末」

(第43号、通巻63号) 1週間前の24日、朝刊各紙に岩波書店の『広辞苑』第6版の改訂内容が紹介された。「ニート」「デパ地下」「いけ面」「メタボリック症候群」「逆切れ」……。新しく収録される語に焦点をあて、毎日新聞は1面の左肩の囲み、朝日新聞は社会面…

「王道」へは“狭き門より入れ”

(第42号、通巻62号) ある全国的な組織の季刊誌の編集委員として編集後記に「春4月と言えばスタートの月、心はずむ季節である。春風に舞い上がったわけではないが、今月からラテン語を独学で始めてみようと思い立った」と書いたことがある。印欧語の祖語で…

「先斗町」と「有平塘」の意外な共通項

(第41号、通巻61号) 標題にある「先斗町」は、改めて言うまでもなく京都の有名な花街であり、代表的な観光スポットでもある。もう一つの「有平糖」は飴菓子の一種だ。一見、互いに関係なそうなこの二つの語の間に、実は隠れた共通項があるのである。 有平…

「天地無用」は「上下」だけの問題なのか 

(第40号、通巻60号) 通信販売で購入した家電製品が先日、宅配便で届いた。段ボールの外側に「天地無用」とあった。もちろん、これは人気アニメのタイトル『天地無用!』の方ではなく、引っ越し荷物などの外側によく張られているラベルのことだ。上下逆さま…

「失念」と言えば聞きよい「物忘れ」

(第39号、通巻59号) 若い頃は、ちょっぴり背伸びしてインテリの匂いのする外国語や難しい漢語を使いたがるものだ。大学に入ってまだドイツ語のABCも満足に発音できないのに、女の子のことを「メッチェン」とドイツ語めかして言ったり、金欠状態を「ゲルピ…

「キャラがたつ」、「アベしちゃう」――政局が広める?“流行語”

(第38号、通巻58号) 安倍晋三首相の突然の辞意表明から自民党総裁選、福田康夫新首相誕生までの過程で、二つの言葉が話題になっている。政治そのものの本筋とは離れた脇道でのエピソードだが、その一つは「キャラがたつ」。 一般的にはあまり馴染みがない…

続・「立ち上げる」はパソコンから生まれた新語?!

(第37号、通巻57号) 前々回の「立ち上げる」(9月5日号)は、予想外に反響が大きかったが、意を尽くせなかった部分もある。逆に筆が滑った個所もある。その後の知見も加え「続編」として二、三補足したい。 「立ち上がる」は昔からある言葉だ。この語に、…

「職責」とは何を意味するのか

(第36号、通巻56号) きょう12日昼過ぎ、衝撃的なニュースが流れた。安倍首相の辞意表明。驚いたのは、辞任すること自体ではなく辞意を表明した時期の唐突さに対してである。 いずれ近いうちに政権を投げ出すのではないか、と思わせる伏線はあった。つい3…

「立ち上げる」はパソコンから生まれた新語?!

(第35号、通巻55号) パソコンが普及するにつれ、様々な新語が生まれた。インターネット、インストール、ソフト、Eメール、フリーズ、マウス、クリック…。今ご覧いただいている『言語郎』という珍妙なタイトルのブログ。この「ブログ」という用語自体も一般…

「一姫二太郎」とは

(第34号、通巻54号) 前々回の8月15日号で「初孫」を取り上げた際、文末に「私には、娘の下に息子も2人いる」と付け加えたが、これをもって「一姫二太郎(いちひめにたろう)」というのは誤解だ。子どもの人数は女の子一人に男の子二人がよい、と解釈する…

「人心一新」の「人心」とは何を指すのか

(第33号、通巻53号) 自民党が参院選に惨敗した後の先月31日、安倍首相は「赤城(農林)大臣を含めて人心を一新していく」と述べた。首相の言う「人心一新」とは、前後の文脈から内閣改造と自民党役員の交代のことを指しているのは明らかだ。新聞各紙もテレ…

「初孫」は「ういまご」か「はつまご」か 

(第32号、通巻52号) 先週金曜日の10日早朝、娘が女児を無事出産した。娘夫婦にとっては結婚5年目にしてようやく授かった我が子であり、私ども夫婦にとっても喜びは格別。娘には口にこそ出しはしなかったけれど、ひそかに待ち望んでいた初孫なのである。と…

「山茶花」は昔「さんさか」と読んでいた 

(第31号、通巻51号) 今日8日は早や立秋。不屈の精神力でガンの病苦と闘っている元刑事のK氏《注》から2日前、暑中見舞い状をいただいた。鬼刑事のイメージとはおよそかけ離れた可憐な「月見草」の写真2枚組みのはがき。1枚は白、もう1枚は淡いピンクの…

「ていをなしていない」と言っても「体はなしている」 

(第30号、通巻50号) 「体をなす」という慣用句がある。時には「体を成す」と表記することもある。まとまった形になる、というほどの意味だが、否定形で使われるケースが多いように思われる。「会議の体をなさない」とか、「記事の体をなしていない」とか。…

「とても」は「全然」と、とてもよく似た?副詞 

(第29号、通巻49号) 前回取り上げた二つの単語のうち、「こまぬく」については、知らなかったという人が多かったようだが、「全然」の方については、「とても」という語とよく似ているのではないか、との指摘が寄せられた。言われてみるとまさにその通り。…

手を「こまねく」か、「こまぬく」か、どちらも「全然OK」  

(第28号、通巻48号) 言葉は時とともに変わるものだ。語彙はもちろん、文法も語法も例外ではない。典型的な例として「全然」と「拱(こまぬ)く」の2語についてみてみよう。 まず「全然」という副詞から。ふつうは、下に打ち消しの言い方や否定的な語を伴…

続・「利休鼠の雨」とは?

(第27号、通巻47号) 『城ヶ島の雨』の歌詞の中で分かりにくいところがもう一個所ある。5行目の後半の「通り矢のはな」だ。「通り矢」は、「(京都の)三十三間堂の通し矢」で知られるように、普通は「通し矢」という。もともとは、矢先を上に向けないで遠…

「利休鼠の雨」とはどんな雨?

(第26号、通巻46号) ある言葉が若い世代には常識でも、年配者は聞いたことすらない、というケースは珍しくない。常識の“すれ違い”は言葉に限らない。歌でもよくある。 先日、ある人の「偲ぶ会」で、篠笛を修行中の知人が追悼の思いを笛の音に託して「千の…

「かつて」を「かって」に書くのは間違い?! 

(第25号、通巻45号) 社会人になって間もない頃、「過去のある時、昔、以前」という意味のつもりで原稿に「かって」と書いたところ、上司に「はなし言葉ではともかく、文章で表現する時は『かつて』とするものだ」と注意された。「つ」を小さな「っ」とする…

名訳と迷訳、その“様々なる意匠”

(第24号、通巻44号) 一見簡単な短い英文なのに、まったく意味をつかめないことがしばしばある。誤訳以前の話だ。5月下旬に出版されたばかりの『英文の読み方』(行方昭夫著、岩波新書)に、かつて私がお手上げしたのと同じ英文が偶然取り上げられている。…

“free”はいつも「自由」とは限らない

(第23号、通巻43号) “free”をカタカナ書きにすれば「フリー」。「自由」という意味で日本語化している易しい英単語の一つだが、そこに落とし穴がある。 『日本語ぽこりぽこり』(アーサー・ビナード著、小学館)という風変わりな題のエッセイ集に、リチャ…

誤訳の悲喜劇 

(第22号、通巻42号) 旧制一高生・藤村操の“哲学的自殺”は、誤訳が生んだ悲劇と言えなくもないが、『私の翻訳談義』(鈴木主税著、朝日文庫)によれば、明治時代、英語の誤訳を指摘されたのを恥じて自殺した翻訳の大家がいる、という。 問題の英語は、“a li…