『ダカーポ』 休刊 

(第51号、通巻71号)
    マガジンハウス社の情報誌『ダカーポ』が今月上旬発売の通巻620号を最後に「休刊」した。記念すべき号を求めるべく近所の書店を回ったが、どこも品切れ。半ばあきらめかけた時に穴場を思いついた。団地の中のコンビニ店の雑誌の棚にあるかもしれない。案の定、まだ売れ残っていた。
    26年前の1981年11月の創刊。当時のキャッチコピーは「現代そのものが圧縮されているリトルマガジン」。月2回の発行だったが、情報を広く浅く知るには重宝な雑誌だった。「休刊」に追い込まれたのは、インターネットなどウェブの普及で部数が落ち込んだためのようだ。620号の最終ページに「読者の皆様へ」と題し「今号をもちまして『ダカーポ』は休刊いたします。(中略)いつかまた、違った形で、お会いできる日が来るかもしれません。それまで、皆様、どうぞ、お元気で!」とあった。
    「休刊」とは、ふつう字面通りに「新聞、雑誌などの定期刊行物が刊行を休むこと」(『現代国語例解辞典』第4版)を意味する。「新聞休刊日」という時はその典型だ。しかし、実際にはもう一つの意味で使われることがある。今回の『ダカーポ』の「休刊」の場合は、一時的に休むのではない。「読者の皆様へ」の一文で分かる通り、これが最終号なのである。次の号はもうない。端的に言えば、廃刊である。

    二通りの意味を持つ、似たような語はほかにもある。例えば「閉店」。その日の営業時間を終えてシャッターを下ろすこと、という意味のほかに、商売をやめて店をたたむことも指す。あるいは「退社」。勤務時間が終わって会社を出ることと、勤めていた会社を辞めること、を意味する。いずれも、一時的か長い時間で見るか、の差といえる。「休刊」もその点では同じ範疇に入るが、長い時間で見る方での意味は、「閉店」や「退社」ほど明確に意識されていないように思える。

    ほとんどの辞書もそこまでは触れていない。そんな中で『明鏡国語辞典』の記述はひときわ光る。「休刊」の一般的な語釈を示した後に、「『廃刊』の婉曲な言い方とすることもある」と注をつけているのだ。辞書の説明としては、少々こなれていない書き方ではあるが、辞書利用者にはまことに親切な内容だ。

    話を元に戻して――「ダ・カーポ」とは、「始めから」を意味するイタリア語の‘da capo’からきている。‘D.C.’という略記で「始めに戻って演奏をもう一度繰り返す」ことを示す音楽用語だ《注》。わが愛読誌『ダカーポ』も、「いつかまた、違った形で」もいいから、ぜひとも戻ってきてほしい。


《注》 『新音楽辞典(楽語)』(音楽之友社)、『音楽用語ハンドブック』(カワイ出版)。音楽用語としては「ダ」と「カーポ」の間に中黒の「・」を入れるが、今回取り上げた雑誌名は、「ダカーポ」と表記して、中黒を入れない。
【謝辞】 当ブログ『言語楼』は毎週1回、水曜日に更新していますが、1週間前の12月19日付の配信後の22日未明にpv(ページビュー)が4万の大台を超えました。今年1月10日付のリニューアル第1号から数えてちょうど50号目です。コメントや書き込み、E-mailを通して激励、共感、感想、提案など様々な声を寄せていただいた読者の皆様に感謝いたします。中には手厳しい批判もありました。謙虚に耳を傾けて正すべきは正し、しかし気負うことなく肩の力を抜いて、言葉の遊歩道を歩いていこうと思っています。今後も時折のぞいていただければ幸いです。