2010-01-01から1年間の記事一覧

「蓋然性」とは

(第208号、通巻228号) 個人情報を含む国際テロ関係の公安資料がインターネット上に流出した事件で、警視庁は2カ月近くも経ってからようやく警察の内部文書であることを認めた。その際の記者会見で公表した見解に「警察職員が取り扱った蓋然性(がいぜんせ…

「間髪を容れず」は「かんぱつ……」ではない

(第207号、通巻227号) 「すぐに」「即座に」の意の「間髪を容れず」《注1》という成句をどう読むか。会話でもごく普通に使う言葉だ。おそらく大半の人は「かんぱつをいれず」と言うに違いない。しかし、「かんぱつ」を国語辞典で引いてみても載っていない…

「金髪のジェニー」、本当は薄茶色だった

(第206号、通巻226号) 前回のブログの結びを「"yellow"、必ずしも『黄色』とは限らないと同様に、金髪といえば"blonde"と機械的に当てはめるのも短絡的――我が身にも覚えがある」としたが、「我が身」の念頭にあったのは、米国のスティーブン・フォスター作…

「黄色い」花嫁、「オレンジ色」の車……

(第205号、通巻225号) 前回は『ことばと思考』(今井むつみ著、岩波新書)から右、左などの位置関係を「絶対方位感覚」で示す言語の例を紹介したが、同書の中には、色の表現が言語によってかくも違うものかを解説した『日本語と外国語』(鈴木孝夫著、岩波…

「右」「左」を「東」「西」で表現する言語

(第204号、通巻224号) 世界には、数千種類の言語があるといわれる。語彙も文法もさまざまだ。語彙を例にとれば、イヌイットの言葉には、雪を表す語がいくつもある《注1》。日本語だと雨の種類を示す語が多い。時雨(しぐれ)、五月雨(さみだれ)、梅雨(…

小春日和と秋桜

(第203号、通巻223号) 山口百恵の若い頃の歌に「秋桜(コスモス)」(作詞・作曲さだまさし)という名曲がある。メロディーもすばらしいが、詩もまた、母と嫁ぐ娘の心情を季節に託してしみじみつづった佳品である。 「淡紅(うすべに)の秋桜が 秋の日の …

「やばい」の扱いに見る辞書の個性

(第202号、通巻222号) 「やばい」に「すごくいい」「旨い」などとプラス・イメージの意味が加わったのは、前回のブログで紹介したように割と最近になってからだ。いくつかの国語辞典を引き比べてみると、新用法に対する姿勢、言い換えれば辞書の個性が分か…

「このラーメン、やばい!」。食べるべきか否か

(第201号、通巻221号) ある言葉についてプラス・イメージの意味でとらえるか、マイナス・イメージでとらえるかで、世代がくっきり分かれる。そんなリトマス試験紙のような言葉の一つに「やばい」がある。 私の世代では、「やばい」といったら「危険だ。ま…

「障害者」は「障碍者」とすべきか「障がい者」でもいいか

(第200号、通巻220号) 災害時や緊急を要する事故などの場合、独力で脱出できない人を地域の連帯で手助けしよう――私の住む団地でも遅ればせながら「要援護者」問題に取り組み始めた。その打ち合わせ会議が先頃開かれた際、自治会の担当部門が行政当局の指導…

「杜」と「森」の違い

(第199号、通巻219号) 今回は、3週間前の196号のブログで「森」と「林」を取りあげた際に宿題としていた「杜」について述べてみたい。 「杜」と「森」の違いは、普通の国語辞書でははっきりしない。と言うより同じ言葉として扱っている。岩波書店の『広辞…

捜査の「見立て」が筋違い?

(第198号、通巻218号) 「見立て」というと、どんなことを連想するだろうか。「ネクタイの見立てがいい」とか「あの医師の見立てはしっかりしている」とかの類だろう。見立て、という言葉は、他にも様々な意味を持つ多義語だが、「検察の見立て」とか「捜査…

「証拠改竄」の「竄」の意味・由来は?

(第197号、通巻217号) 郵便不正事件の捜査の過程で大阪地検特捜部の当時の前田恒彦主任検事が「証拠を改竄(かいざん)した」として11日、証拠隠滅の罪で起訴されたが、この事件をめぐる報道の中で、「改竄」という語がしばしば使われている。実際には「竄…

続・「森」は「林」より木が多いか

(第196号、通巻216号) 前号の末尾で紹介した“学究派”の説――人間の手が入らず自然のままに生えているのが「森」で、人間が手を加えて人工的に育てたのが「林」――は、実は語源的にも有力な説なのである。 各種の国語辞典や語源辞典の説明をかいつまんでまと…

「森」は「林」より木が多いか

(第195号、通巻215号) 私の住む団地に先日、初めてお神輿が渡御した。団地のマンション群のすぐそばにある神社の例大祭の一環だ。ふだんは無人の小さな神社だが、小なりと言えども、神社は神社。参道の石畳をのぼった先の丘の周りは一応「鎮守の森」になっ…

続「知ってか知らずでか」

(第194号、通巻214号) 実は、標題の慣用句にはさまざまなバリエーションが存在する。ウエブを検索しただけでも、10種類ほどにもなる。以下、素人の独断で、元になったと思われる語から変化語まで図式化してみると―― 知ってか知らずでか→知ってか知らでか→…

「知ってか知らずでか」

(第193号、通巻213号) 愛用している英和辞書が2冊ある。学習研究社の『スーパーアンカー英和辞典』と小学館の『プログレッシブ英和中辞典』である。スーパーアンカーの編集主幹を務める山岸勝榮氏は英語学、言語文化学が専門。日本語の語感もするどい。同…

「ご存じ」か「ご存知」か

(第192号、通巻212号) ひらがなで「じ」と書くか、漢字で「知」と書くか。今回の標題の場合、あなたはどちらを使うだろうか。おそらくほぼ半々に分かれるに違いない。 「ごぞんじ」は、動詞「存ず(る)」から来ている。存ずる、とは「考える」「思う」や…

Re: Re:「ご返事」か「お返事」か

(第191号、通巻211号) 「お誕生」「ご誕生」のように、「お」も「ご」も使える単語はそう多いわけではないが、少しずつ増えつつあるように見える。前回のブログの末尾でも紹介した、このような「相乗り」語には規則性があるのだろうか。私が調べた限りでは…

Re:「ご返事」か「お返事」か

(第190号、通巻210号) Eメールの“Re:”の意味と由来を取り上げた前号のブログには1週間で5000pv.ものアクセスがあった。当ブログとしては2週間分の数字だ。この“Re:”に関連して頭に浮かんだのだが、Eメールの返信に対する礼状の書き出しの言葉だ。「早速…

返信メールの“Re”の意味と由来

(第189号、通巻209号) Eメールを受け取った後、発信者に返事を出そうとパソコンのメールソフトの「返信」ボタンをクリックする。画面の宛先欄に相手のアドレスが打ち込まれており、「件名」の欄には相手が書いてきた用件の冒頭に“Re:”が自動的に付記され…

「乙な味」の「乙」のいわれ

(第188号、通巻208号) 前号のブログは、最近では珍しいほど大きな反響があった。「普通においしい」を使いこなしているのは40手前ぐらいの世代、と見受けられる。それはともかく、ブログの最後を「乙な味でした」とちょっぴり洒落めかして締めたところ、「…

「普通においしい」の用法

(第187号、通巻207号) 打ち合わせ、暑気払い、ノミュニケーション……。酒好きの人間には飲む口実は事欠かない。先日、知人と食事がてら催した「勉強会」も生ビールで喉を潤しながらだったが、幹事役が完全な下戸(げこ)とあって、会食の場はいつものような…

平均寿命と平均余命の違い

(第186号、通巻206号) 「人間五十年、下天のうちをくらぶれば夢幻の如くなり」。織田信長が好んで舞ったという能の「敦盛」の一節。出だしを「人生五十年」と言うこともあるが、27日付けの朝刊各紙が報じるところによれば、現代日本人の平均寿命は、女性86…

国技とは

(第185号、通巻205号) 大相撲が賭博問題で揺らいでいる。大相撲と言えば国技という言葉が反射的に浮かぶ。親方や力士によるプロ野球賭博が社会問題化してからは「国技」という語が一層目につくようになった。日本相撲協会が名古屋場所では天皇賜杯などの表…

投票立会人席から見た「似た者夫婦」

(第184号、通巻204号) 電車の中などで兄妹かと見まがうほどの似た者同士のご夫婦(たぶん)を時折見かけるが、先日終わった参院選の投票所で、世の中には似た者夫婦が意外に多いことを実感した。いわゆる「充て職」で投票立会人《参考》なる者に選任された…

辞書も間違う選挙の「公示」と「告示」

(第183号、通巻203号) 選挙となると、新聞やテレビに公示、告示という単語がよく出てくる。「○○選挙の公示日は▽日に決まった」とか「▽日に告示された□□選挙は……」とかという風に使われる。公示も告示も、公に知らせるという点では同じ意味のように思われる…

「ひも解く」の本来の意味は?

(第182号、通巻202号) 発売されたばかりの呉智英『言葉の煎じ薬』(双葉社)を自宅近くの本屋で目にした。奥付を見ると、本を手にしたその日の6月20日が第一刷の発行日だった。この偶然も何かの縁とさっそく買い求め、一気に読んだ。言葉の「漢方薬師」ら…

たかが数字、されど数字。一筋縄でいかぬ日本語習得

(第181号、通巻201号) 世界中でどの言語が難しいか。一般的にある言語を習得する難易度は、母語との言語学的近縁関係の差によるところが大きい。英語話者ならドイツ語を学ぶのは易しいだろうが、フランス語となると少し難しくなるのではないだろうか。しか…

「雨天の友」。鳩山前首相の座右の銘の意味は?

(第180号、通巻200号) 梅雨のない北海道は別として全国的に梅雨入りした。これからしばらくは雨天の日々が続く。出歩くのもついおっくうになる。 「今までありがとう。『雨天の友』をこれからも大切にしたい」。鳩山由起夫前首相は辞任発表前日の1日夜、…

“What time is it now?”は「掘った芋いじるな」で通じる?!

(第179号、通巻199号) “Hepburn”が「ヘボン」、「ヘップバーン」と両用の書き方で表記されている、と前回紹介したところ、似たような例が他にもないか、という問い合わせがあった。ぱっと思い浮かんだのは、「ラムネ」と「レモネード」の関係だ。 ラムネは…