投票立会人席から見た「似た者夫婦」

(第184号、通巻204号)
    電車の中などで兄妹かと見まがうほどの似た者同士のご夫婦(たぶん)を時折見かけるが、先日終わった参院選の投票所で、世の中には似た者夫婦が意外に多いことを実感した。いわゆる「充て職」で投票立会人《参考》なる者に選任された体験でのことである。
    投票立会人というのは、朝7時から夜8時まで13時間も投票所に缶詰にされる。2、3時間おきに30分の休憩・食事をとる以外は投票が公正に行われているかどうか、ただひたすら投票の様子を見続けるのが基本的な任務だ。本を読んだり、ましてやイヤホンで音楽を聴いたりするなどというのはもってのほかだ。席を離れたり、無駄なおしゃべりをするのも原則禁止。難行と言うのは大げさにしても、苦行ではある。
    しかし、考えようによってはふだんならまず体験できない人間観察のまたとない機会とも言える。投票所の場所は自宅のある団地の一角なので、知った顔の人も少しはいるが、大半はこれまで会ったことのない住民だ。一番乗りを目指してきた若者、よちよち歩きの幼児を連れた家族、買い物帰りの主婦……。中でも多かったのが夫婦連れだ。
    夫婦でも若い年代はともかく、年配者になるとよく似た同士の2人連れが不思議なほど目立った。「似た者夫婦」という成句は、「仲のよい夫婦はその性質・趣味などが似るということ」(『広辞苑』)を指すのが一般的だろう。「夫婦は両様(りょうよう)の人に非(あら)ず」という言葉もある。夫と妻とはそう極端に性格が異なっているということはない。もともと似た者同士が夫婦になったというわけだ。が、それはあくまで内面的なこと。
    投票所で私が目にした「似た者夫婦」というのは、外見上の印象である。顔つき、表情から歩き方、しぐさ、醸し出される雰囲気まで実によく似ているのである。まるで血のつながりがあるようにさえ思えるカップルもいた。長年連れ添った夫婦というのはかくまで似てくるものなのか、と改めて感じ入った次第だ。
    とは言っても、誰に票を入れたのかまではむろん分かるわけはない。「似た者同士」ではあっても「似た者同志」とは必ずしも言えないからだ。
    「同士」は「男同士」「いとこ同士」など互いに同じ関係にある人や仲間のことを指し、「同志」は政治・思想・信条など志を同じくする者を意味する《注》。「同士」の仲の夫婦もあれば、「同志」の仲の夫婦もあるに違いない。


《注》 集英社『漢字を正しく使い分ける辞典』、大修館書店『明鏡国語辞典』など参照。
《参考》  公職選挙法(投票立会人)第三十八条 市町村の選挙管理委員会は、各選挙ごとに、各投票区における選挙人名簿に登録された者の中から、本人の承諾を得て、二人以上五人以下の投票立会人を選任し、その選挙の期日前三日までに、本人に通知しなければならない。
2 投票立会人で参会する者が投票所を開くべき時刻になつても二人に達しないとき又はその後二人に達しなくなつたときは、投票管理者は、その投票区における選挙人名簿に登録された者の中から二人に達するまでの投票立会人を選任し、直ちにこれを本人に通知し、投票に立ち会わせなければならない。
3と4は省略。 
5 投票立会人は、正当な理由がなければ、その職を辞することができない。