「雨天の友」。鳩山前首相の座右の銘の意味は?

(第180号、通巻200号)
    梅雨のない北海道は別として全国的に梅雨入りした。これからしばらくは雨天の日々が続く。出歩くのもついおっくうになる。
    「今までありがとう。『雨天の友』をこれからも大切にしたい」。鳩山由起夫前首相は辞任発表前日の1日夜、ひそかに公邸を訪れた首相補佐官中山義活代議士にこう語ったという。このエピソードを「鳩山辞任劇」という検証記事で紹介した読売新聞(3日付け朝刊)は、続けて「中山は鳩山の辞意を悟った。鳩山と中山の会話の横で、鳩山の夫人、幸が静かに、クッションに綿詰めをしていた」と書いている。
    この記事中、「雨天の友」の4文字にカギ括弧がついていた。日本の古典か中国の漢詩にある成句なのだろうか。初めて目にした言葉だ。浅学非才の身には分からず、例によって様々な辞書にあたってみたが、『日本国語大辞典』でさえ「雨天順延」「雨天体操場」といった語はあるものの、「雨天の友」は見つからなかった。
    ところが、意外や意外、ウェブの『デジタル大辞泉』に収録されていた。「逆境の時に支持してくれる友人。また、厳しい忠言をしてくれる友人」という語義を示し、補説の形で「三木武夫元首相の言葉とされる」と“原典”まで紹介している《注》。この「雨天の友」という語は「友愛」と並ぶ鳩山首相座右の銘の一つだそうだ。
    ネット検索してみると、鳩山前首相は確かにあちこちで使っている。今年4月中旬、都内の新宿御苑で恒例の桜を見る会が開かれた。気温4度、雨。政権の支持率の下落ぶりを象徴するような気温の低さだった。鳩山首相(当時)は1万人の招待客を前に「人生には二人の友がいる。晴天の友と雨天の友である」と挨拶を切り出し、「晴れた時には人が集まって来るが、いったん人生に雨が降ると、一人去り、二人去りと消えてしまうものだ。今日、お集まりの皆様方はまさに一人ひとりが鳩山政権における雨天の友である」と述べたという。
    会社でも役所でも地位が上がると、その肩書きにすり寄ってくる者が増えるが、中枢ラインから外れるといつの間にか周りから人は消えていく。まして、権謀術数うずまく政界のこと、それが今も昔も変わらぬ世のならいだ。寒い日に桜を見に来てくれたというだけで「雨天の友」と鳩山さんも本当は思っていまい。
    「まさかの時の友こそ真の友」を英語では“A friend in need is a friend indeed ”というそうだ。同時に、“The best of friends must part ”という言葉もあるとか。意訳すれば「真の友であってもいつかは別れる時がくる」といった感じだ。鳩山さんの場合はいったいどうなのだろうか。


《注》 同じ『大辞泉』(小学館)でも、書籍版の方には見出しが立てられていない。