小春日和と秋桜

(第203号、通巻223号)
    
    山口百恵の若い頃の歌に「秋桜(コスモス)」(作詞・作曲さだまさし)という名曲がある。メロディーもすばらしいが、詩もまた、母と嫁ぐ娘の心情を季節に託してしみじみつづった佳品である。
    
    「淡紅(うすべに)の秋桜が 秋の日の 何気ない陽溜(ひだま)りに揺れている」で始まる歌詞のサビの部分は次のような一節だ。
      ♪こんな小春日和(こはるびより)の 穏やかな日は
      ♪貴方の優しさが 浸みてくる
    
    「小春日和」。今ごろの季節にときおり現れる、暖かい晴れた日にピッタリの言葉である。が、若い人たちの中には、桜(コスモス)という題の歌に小日和と春が出てくることを不思議に思う向きもあるようだ。小春というのは、国語辞典を引くまでもなく、晩秋から初冬にかけての穏やかな暖かい日を指す。
    
    朝日小事典『日本の四季』(荒垣秀雄編)には、「小春とは旧暦10月の別名だから現行暦の11月あるいは12月前半ぐらいの季節に相当する」とあり、中国の古い歳時記から「天気和煖にして春に似たり、故に小春と曰う」と出典が説明されている。まるで春を思わせる穏やかな晴天、ということからきているのだろう。
    
    この事典の「小春日和」の項の執筆者は天気キャスターの草分けであり、気象エッセイストとしても著名な倉嶋厚氏だけに、気象学的な解説も詳しい。
    
    それによると、小春日和の天気図は、紅葉から落葉に向かう山野を冷たい雨で濡らしながら低気圧が通る。その翌日は、気圧配置が一時的に西高東低の冬型となり、北風が吹くが、半日ほどで吹き止み、大陸から移動性高気圧が日本をおおい始める。そんな時に現れる晴天が小春日和なのだという《注》。
    
    小春の「小」は、単に「小さい」という意味だけでなく、「〜に似た」、「第二の」の意味をも含んでいる。暖かな春の一日のような天気、というわけだ。以前、当ブログで取りあげた「小江戸」、「小京都」と相通じるものがある。
    
    季語はもちろん、冬である。角川書店の『ハンディ版 入門歳時記』には「厳しい冬になる前の温和な日和を喜びいとしむ気持ちがある」と解説している。その歳時記から代表的な一句を挙げる。
       玉の如き小春日和を授かりし  松本たかし


《注》 英語では“indian summer”という。