「証拠改竄」の「竄」の意味・由来は?

第197号、通巻217号)
    郵便不正事件の捜査の過程で大阪地検特捜部の当時の前田恒彦主任検事が「証拠を改竄(かいざん)した」として11日、証拠隠滅の罪で起訴されたが、この事件をめぐる報道の中で、「改竄」という語がしばしば使われている。実際には「竄」が常用漢字でないため「改ざん」と交ぜ書きで表記されることがほとんどだが《注1》、「ざん」では印象が弱い。と言って、「竄」を用いれば感じは出るが、この漢字、読めても書ける人はまれではあるまいか。
    私自身は書けなかった。どんな意味を持つのかさえも知らなかった。鼠(ねずみ)という字にどこか似ているな、と漠然と思っていた程度だ。ふだんは12ポイントで使っているパソコンのワープロソフトのフォントサイズを36ポイントにまで拡大して、一画一画をようやく確認できた。実は「鼠」の上に「穴」が載った形だ。総画数は18画。漢和辞典では穴かんむりの部首に入っている(「ウ」かんむりではない)漢字だが、「ねずみ」と無縁ではなかった。
    もともとは鼠が狭い穴に潜り込むことを示す会意文字。『漢字源 改訂新版』(学習研究社)の語義をもとに私見を加えて言えば、「もぐる、のがれる」から「人目につかないへんぴな所におしこめる」の意になり、さらに「文字を変える」「他人の文章をこっそり自分の文章の中にもぐりこませる」という意味に広がったようだ。つまりは「改竄」だ。
    「改竄」の意味の中には「添削」を指すという説もあるが、現在では「小切手を改竄する」「書類を改竄」とか今回の事件のように「証拠改竄」とかいう風に、自分の都合のいいように書き換える、の意でもっぱら使われる。愛用の『明鏡国語辞典』(大修館書店)では「(悪用する目的で)文面を故意に書き換えること」と、あえて「悪用」を強調している。
    悪意がなくとも、電子データなどの文書が知識不足や誤解、過失によって改変されるケースについてもコンピューター業界などでは「改竄」という語が用いられており、必ずしもマイナスイメージの言葉ではない。しかし、「鼠」は、こっそり悪いことをするもののたとえとして使われることが多いせいか、鼠という字にウかんむりをかぶせた「竄」のダーティーなイメージは「改」まらないようだ。


《注1》 新聞各社の用字用語集では、「変造」「改変」「改ざん」と言い換えることにしている。
《注2》 「鼠」という漢字は、ネズミの形から生まれた象形文字だそうだが、大和言葉のネズミは、人が寝ている夜の間に米などの食料を食べたりする「寝盗み」から転じたと言われる。