「金髪のジェニー」、本当は薄茶色だった

(第206号、通巻226号)
    前回のブログの結びを「"yellow"、必ずしも『黄色』とは限らないと同様に、金髪といえば"blonde"と機械的に当てはめるのも短絡的――我が身にも覚えがある」としたが、「我が身」の念頭にあったのは、米国のスティーブン・フォスター作曲の「金髪のジェニー」である。
    「おおスザンナ」や「オールド・ブラック・ジョー」などのフォスターの曲といっしょに中学校の音楽の授業で習った。「夢に見しわがジェニーは ブロンドの髪ふさふさと 小川の岸辺を行き あたりには雛菊(ひなぎく)笑(え)む」。津川圭一の手になる日本語訳と共に、教科書には英語の原詩も併記されていた。詩情豊かな名曲の一つだ。
    訳詞、意訳はほかにもいくつかあるが、日本語では、たいてい「金の髪」(林宏太郎作詞)、「金髪をなびかせて」(千葉比呂志訳詞)という具合に《注1》髪の色を「金髪」と表現している。英語での題名が"Jeanie with the Light Brown Hair"なのにもかかわらず、だ。「金髪のジェニー」の訳語の題名が定着してしまったせいなのかもしれない。
    私自身、4年前のgooブログで取りあげるまでは、なんの違和感も覚えず、たまには"I dream of Jeanie with the light brown hair"と英語の歌詞を口ずさんでいたことさえあった。しかし、改めてその英語を読んで見て、「金髪」にあたる個所が"the light brown hair"となっているのに気づいた。直訳すれば「明るい茶色の髪」となる。『ロングマン英和辞典』では、light brown hair"の例文に「薄茶色の髪」の訳を与えている。
    念のため、研究社『新和英大辞典』第5版で「金髪」を引いてみたところ、"golden[fair, blond(e)] hair; hair of gold"とあるだけで、"light brown hair"は載っていなかった。
    「金髪のジェニー」は、こう見てくると、表面だけから言えば誤訳ということになるが、日本人の金髪に対する潜在的な憧れを意識した翻訳手法なのか、あるいは欧米人は「金髪、碧眼」というステレオタイプの見方に合わせたのかもしれない。色の訳だけでなく、あるものの色が何色に見えるか、何色と表現するか、についても文化と切り離せない。
    冒頭に挙げた"yellow"のデンで言うと、黄色は日本では月の色を表すが、欧米では太陽を示すことが多い。中国では大地、ヒンズー教では光をあらわす色だという《注2》


《注1》 ウェブサイト「金髪のジェニー」(http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/kinpatsuno.html
《注2》 『英語イメージ辞典』(三省堂
【お断り】 今回の記事も、gooブログ時代の2006年8月1日付けに載せたものを大幅に書き換えて転用しました。