「木枯らし1号」はあるが「2号」「3号」はない

(第46号、通巻66号)
    春先に最初に吹く強風を「春一番」というのに対して、冬の訪れを告げる強風は「木枯らし1号」。「一番」ではなく、なぜか「1号」という。今年の「木枯らし1号」は、東京地方、近畿地方とも3日前の11月18日に観測された。東京は昨年より6日、近畿は11日遅いという。

    木枯らしとは、その名の通り、木々を枯らしてしまうような寒風を指す。「凩」とも表記するが、気象庁の「基準」によれば、以下の条件を満たした最初の日の風が「木枯らし一号」として発表される。
1)10月半ば頃から11月末日までの間に
2)気圧配置が西高東低の冬型になっている条件下で、
3)風力5以上(風速8メートル/秒)で吹いた北寄り(北から西北西)の強い季節風

    「春一番」の定義をひっくり返して、冬向けバージョンにした感じの内容だ。しかし、春には「春二番」「春三番」《注1》と“後続”の風にも名があるのに、晩秋から初冬にかけて吹く木枯らしには「2号」「3号」と呼ぶ慣わしはないようだ。理由は定かでない。「春一番」も「木枯らし」もはるか昔からある言葉ではあるが、木枯らしに「1号」と番号を付けた言い方は、戦後の気象予報サービスの中から生まれた新しい呼称と言われる。ちなみに、「木枯らし1号」をわざわざ発表するのは、東京(気象庁)と近畿地方大阪管区気象台)の2地域に限られている《注2》。

    もちろん、木枯らしそのものは、東北でも九州でも四国でも吹く。ただ「1号」と呼ばないだけだ。木枯らしを詠んだ和歌は万葉の時代からある。俳句の世界では、代表的な冬の季語だ。よく引用される句としては、山口誓子の「海に出て木枯帰るところなし」が挙げられるが、私が好きなのは夏目漱石の「凩や海に夕日を吹き落とす」という句だ。道産子のせいか、この句を見ると、知床の海の、はろか水平線に沈む夕日の光景が思い浮かぶ。


《注1》 当ブログ2月14日号の「『春一番』の春の嵐」を参照。

《注2》 気象庁天気相談所がまとめたデータによると、「木枯らし1号」の最早記録は1988年(昭和63年)の10月13日、最晩記録は1981年(昭和56年)と1969年(昭和44年)の11月28日。本文中で紹介した3条件に合う風が観測されなかったため、木枯らし1号が「発生せず」とされている年は、1951年(昭和26年)からこれまでに4回ある。
 蛇足:だからと言って、これらの年の冬に、木枯らしそのものが吹かなかったわけでは、むろん、ない。