結婚式定番の讃美歌「いつくしみ深き」の「などかは」とは

(第47号、通巻67号)
    「いつくしみ深き」で始まる讃美歌312番は、教会での結婚式の定番とも言える歌である。メロディーが、唱歌の『星の世界』や『星の界(よ)』と同じなので、クリスチャンでなくとも「ああ、あの曲か」と知っている人は多いはずだ《注1》。が、この讃美歌の歌詞は文語体で書かれている。私を含め、誰もがすんなり理解して歌っているとは言い難い。3日前の日曜日(25日)、宇都宮であった甥の結婚式に出席した際、式の直前に手渡された歌詞を読み直して改めてそう感じた。参考のため、以下に一番の歌詞を紹介すると――。

        いつくしみ深き 友なるイェスは、
        罪とが憂いを とり去りたもう。
        こころの嘆きを 包まず述べて、
        などかは下(おろ)さぬ、負える重荷を。

    まず、2行目。「罪と憂い」の間にある「が」は、助詞の類ではない。ここは漢字で書けば「咎」、「あやまち」という意味の名詞だ。つまり、後段に出てくる“重荷”の具体的な中身を「罪、咎、憂い」と三つ列挙しているのである。

    問題は、最後の行。文法的にいえば「負える重荷を 下さぬ」という文を倒置した構文に「などかは」が付いた形だ。

    では「などかは」とはどんな意味か。いくつかの辞書にあたったところでは、始めの三文字「などか」は、「どうして、なぜか」という意味の連語だ《注2》。疑問にも反語の表現にも使われるが、ここの場合は反語だろう。それに「は」が加わると「などか」を強調した言い方になるという。

    以上を私なりにまとめると、最後の行は「背負っている重荷(罪や咎や憂い)を(イエスの元に)どうして下ろさないでいられようか、下ろさないでいられるはずはないのだ」となる。

    讃美歌の元になった原詩は、比較的平易な英語で書かれているが《注3に1番の歌詞のみ紹介》、日本語訳は、反語と倒置法を用いた格調高い文語体だ。教会自体が持つ雰囲気と相まって、その典雅で古風な文体の讃美歌に、人は結婚式らしい荘厳さを一層感じるのかもしれない。


《注1》 私自身が覚えているのは、「月なきみ空に きらめく光 嗚呼(ああ)その星影 希望のすがた 人智は果(はて)なし 無窮(むきゅう)の遠(おち)に いざその星影 きわめも行かん」という『星の界(よ)』の方だが、人によっては「かがやく夜空の 星の光よ」で歌い出す『星の世界』になじんでいるかもしれない。

《注2》 『角川必携古語辞典』、『岩波古語辞典』、『日本国語大辞典』(小学館)などによると、「などかは」は、副詞「など」+係り助詞「か」+「は」の三つの語からできている。

《注3》 What a friend we have in Jesus, all our sins and grief to bear!
What a privilege to carry everything to God in prayer.
O what peace we often forfeit, O what needless pain we bear.
All because we do not carry everything to God in prayer.