2007-01-01から1年間の記事一覧

続・華厳の滝投身自殺と「ホレーショの哲学」(改訂版) 

(第21号、通巻41号) "your"という語を目にしたら、明治時代の秀才・藤村操ならずとも、ほとんどの人が「君(君たち)の」と訳すのが普通だ。しかし、シェークスピアの『ハムレット』のあの場面のセリフにある"your"は、英語学者の渡部昇一著「英文法を撫で…

華厳の滝投身自殺と「ホレーショの哲学」(改訂版)

(第20号、通巻40号) きのう5月22日は藤村操の命日である。美文調の哲学的な遺書を残して日光の華厳の滝に投身自殺した旧制一高の学生と言えば、どこかで聞いたことがあると思い出す人も多いに違いない。104年前の明治36年(1903)のことだ《注1に夏目漱…

ハ行音の謎の前歴――続・「母」は昔々、「パパ」だった      

(第19号、通巻39号) 前号のブログで「ハ行音は、ずっと古い時代には、“p”音の『パ、ピ、プ、ペ、ポ』であった」という橋本進吉博士の言葉を引用した。前号の内容を要約すると、ハ行音は現在のような“h”音の「ハ、ヒ、フ……」になる前は“f”音の「ファ、フィ……

「母」は昔々、「パパ」だった 

(第18号、通巻38号) 5月の第二日曜日は「母の日」。今年の場合は13日だが、実は「母の日」が生まれるきっかけになったのは、102年前のきょう5月9日である《注1》。この記念すべき日にちなんで、今回のブログの話題は「母」という言葉について。 タイト…

「憲法順守」と掛けて「高根の花」と解く。その心は?

(第17号、通巻37号) 今年の憲法記念日(5月3日)は、憲法施行60周年にあたる。施行後何年であれ、国の最高法規たる憲法は「遵守(じゅんしゅ)」しなければならない。憲法自体に、「憲法尊重擁護の義務」がうたわれており、それを受けて結ばれた条約・国…

「手前」とは、「おまえ」のこと? 自分のこと? 

(第16号、通巻36号) 言葉とは不思議なもので、同じ単語で正反対の意味を持つ例が少数ながらある。「結構」はその一つだ。「結構なお点前で…」とか「結構なご身分ですね」とか言うのは、すぐれている、みごとだ、うらやましい、といった肯定的な意味になる…

散る桜 残る桜も 散る桜

(第15号、通巻35号) この前の日曜日、所用で東京・上野公園を通ったらまだ咲き誇っている桜があった。が、桜前線の中心はとうに関東を去って北上中だ。これからは東北地方が花見の季節になる。 花といえば、桜か梅を指す。あるいは二つ並べて表現する。「…

草木も眠る「未明」 ? ! 

(第14号、通巻34号) 1週間前に発行したブログで気象用語としての「宵のうち」を扱ったばかりだが、たまたまきょう11日付け朝日新聞の「天声人語」でも、気象庁が「宵のうち」を「夜のはじめごろ」に替えるという話題を取り上げ、「いまひとつ趣を欠く」と…

「宵のうち」の“時間感覚”

(第13号、通巻33号) 3月30日付け朝日新聞朝刊に、「気象庁が天気予報などに用いる予報用語から『宵のうち』が消える」という記事が載っていた。同紙によると、この用語は、午後6時から同9時を指す言葉として使われてきたが、一部でもっと遅い時間帯を表…

目の前の選手に「ゲキを飛ばす」とは            

(第12号、通巻32号) 選抜高校野球、プロ野球、サッカー……。春、スポーツの季節が幕開けすると、新聞のスポーツ面も躍動する。同時に、紙面にはある定型句の登場が多くなる。「激(ゲキ)を飛ばす」という表現だ。監督や指導者が選手・部下などに活を入れた…

「冥王星する」=to plutoの意味は?               

(第11号、通巻31号) いささか旧聞に属するが、英語で「冥王星」を意味する“pluto”という単語が今年1月の米国方言学会(ADS)で、2006年の“Word of the Year”(今年の言葉)に選ばれた〈注1〉。 正式には、動詞として、つまり“to pluto/be plutoed”(降格…

『蛍の光』の「かたみ」は「形見」か 

(第10号、通巻30号) 卒業式の歌としては「仰げば尊し」とセットの小学唱歌「蛍の光」〈注1〉も、歌詞を読み解くのは難しい。「仰げば尊し」と同様に係り結びがあるだけではない。掛詞(かけことば)も隠されているからだ。うっかり見過ごす、いや歌い過ご…

「今こそ別れめ」は「別れ目」ではない  

(第9号、通巻29号) 弥生3月は旅立ちの季節。私の小中学生時代は、卒業式のたびに「蛍の光」と「仰げば尊し」を歌った、いや歌わさせられたものだった。文化庁が募集していた「親子で歌いつごう 日本の歌百選」がこの1月に発表されたが、懐かしの「仰げ…

『武士の一分』余聞

(第8号、通巻28号) 「武士の一分」。原作の小説は2回通読した後、参考個所を何度か拾い読みし、映画も2回観た。このブログに書く素材のディテールを確認するためだったが、同じ映画を数日もしないうちに続けて観たのは初めての体験。改めて感じたのは――…

『武士の一分』」原作と映画の違い

(第7号、通巻27号) 小説と映画。同じ題材を扱っても、作品づくりの手法は自ずから異なる。「武士の一分」の場合は、物語の構成法が違う。小説が「序破急」とすれば、映画のほうは「起承転結」を踏んで組み立てられている。 このブログの移転第1号(1月1…

「春一番」の春の嵐

(第6号、通巻26号) これまで2回にわたって北海道弁と共通語のズレについて書いてきたが、今回は視点を変えた話題を。きょう14日、西日本、東日本の各地で「春一番」が吹き荒れた。激しい雨も伴う嵐の一日だった。春一番というと、春先の晴れた日に吹く強…

「疲れた」道産子は「こわい」と言う

(第5号、通巻25号) 前回のブログで「手袋をはく」の「はく」の使い方は北海道弁だ、と書いたが、「その用法は辞書の『新明解』にも載っている。方言とはいえないのではないか」との指摘があった。まさか、と思いつつ『新明解国語辞典』第5版(三省堂)の…

手袋を「はいて」ゴミを「投げる」道産子

(第4号、通巻24号) 道産子なのにめっぽう寒がりで、この時季、家にいる時は毎年自分の部屋だけは暖房をかかさないほどなのだが、暖冬の今年は書斎のエアコンを切って過ごせる日が多い。外出時にも、今のところ手袋の必要はない。 手袋を身につける動作を…

「土曜日まで降らない」は、いつ降る?

(第3号、通巻23号) 「武士の一分」の映画のタイトルの話から始めて、「一分おき」と「一分ごとに」の違い・あいまいさを話題にしてきたが、「〜まで」という表現も解釈があいまいになりがちな言葉の一つだ。 たとえば、「担当者は20日まで出社しません」…

「1分おき」と「1分ごと」

(第2号、通巻22号) 前回のブログ移転第1号では、話題の映画『武士の一分』のタイトルの中の「一分(いちぶん)」の意味に焦点をあてて書いたが、「一分」が、日常もっとも普通に使われるのは、時間を指す「一分(いっぷん)」だろう。そこで今回は、「一分」…

武士の「一分」とは

(第1号、通巻21号) 旧臘(きゅうろう)の一日に封切られた山田洋次監督の映画『武士の一分』が好評のようだ《参考》。「一分」は、「いっぷん」、「いちぶ」、「いちぶん」と少なくとも3通りの読み方があり、それぞれ意味が違う。 「いっぷん」は1時間の6…

*近くこちらに引っ越します

半年余前に開設したブログ「言語楼」です。辞書や語法、ことわざ、方言、言語にみる文化、翻訳、語源など日本語を中心とした言葉の周辺を、一知半解の身を承知で探索するページです。 ひとことで言えば、素人の言葉の雑学。普段の生活ではまず使わないような…