「土曜日まで降らない」は、いつ降る?

(第3号、通巻23号)                                   

 「武士の一分」の映画のタイトルの話から始めて、「一分おき」と「一分ごとに」の違い・あいまいさを話題にしてきたが、「〜まで」という表現も解釈があいまいになりがちな言葉の一つだ。

 たとえば、「担当者は20日まで出社しません」という文は、二通りに解釈できる。問題の焦点は、20日は担当者が出社するのかしないのか、ということにある。

  仮に今日が18日だとすると、
(1)19日と20日の両日は出社せず、会社に来るのは21日
(2)19日は出社しないが、20日には会社に来る
のどちらの意味なのか迷う。

  上記の例文を題材に取り上げ「〜まで…しない」という言い回しについて問題提起したのが、1月4日夜のNHK教育テレビことばおじさんのナットク日本語塾」。内容が面白いので、一部独自のデータも加えて紹介しよう。

 ナットク日本語塾の番組によると、NHKがインターネットでアンケート調査した結果では(1)と解釈した人が63%、(2)と解釈した人が37%で、若い世代になると(1)と(2)がほぼ半々だったという。誤解を生まないよう伝えるには、否定文ではなく肯定文で「21日に出社します(あるいは20日に出社します)」とすべき、ということになる。

  英語で「まで」にあたるのは“by”と“until(till)”だが、二つの単語では意味合いが微妙に異なる。語法に詳しい『Eゲイト英和辞典』(ベネッセ)は“by”の項に、次のような用例文を挙げている。

“She won`t come by twelve”
   [彼女は12時までは来ない(「12時以降に来る」という意を含む)]
“She won`t come until twelve”
   [彼女は12時になるまでは来ない(「12時に来る」という意を含む)]

  この辞書の和訳と()内に添えられた注意書きを見ると、NHKの番組の例文で(1)の解釈は英語では“by”に、(2)は“until”に当てはまりそうだ。

  「〜まで…しない」という表現は天気予報でよく使われる。
  晴天続きの週始めに「土曜日まで雨は降らないでしょう」という予報があった場合、土曜日は降るのか、それとも土曜日までは晴天(あるいは曇り)で、日曜日になってから降るのか。先のNHKの番組では、予報を聞く人が何を期待しているかによって違ってくるという。

  たとえばそろそろ雨がほしいという農家の人なら土曜に降る、と受け止めるし、土曜に遠足がある子どもたちだと土曜までいい天気が続く、と解釈する、と解説していた。

  特段、天気に期待することもない“中立”の人にとってはどうとも取れるあいまいな言い回しだ。それだけに、法律的な取り決めや契約などにこの表現をうっかり使うとやっかいなことになりかねない。