手袋を「はいて」ゴミを「投げる」道産子

(第4号、通巻24号)                                     
  道産子なのにめっぽう寒がりで、この時季、家にいる時は毎年自分の部屋だけは暖房をかかさないほどなのだが、暖冬の今年は書斎のエアコンを切って過ごせる日が多い。外出時にも、今のところ手袋の必要はない。

  手袋を身につける動作を、北海道では普通「手袋をはく」と言う。社会人になってからほとんどの年月は横浜に住み、東京に通勤していたこともあって、普段の会話は完全な“標準語”だ。というより、「北海道弁」と「標準日本語」の“ネイティブ・スピーカー”をもって任じていた(まぁ一種の“バイリンガル”?!)。ところが、関東では珍しい大雪のある日、「この寒さじゃ手袋をはかなくちゃいけないな」とつぶやいたとたん、同僚から怪訝な顔をされた。「靴やズボンじゃあるまいし、『はく』というのは変じゃない?」。

  漢字で書けば「履く」。確かに私も、下半身に着用する靴や靴下、ズボンなどを身につけるときは「履く」と言う。では、手袋を手に付けることを標準語では何と表現するのか。「手袋をはめる」と知って驚いた。指輪は、北海道でも「はめる」と言うが、手袋について「はく」を使うのは標準語でないとは。

  『北海道の方言紀行』(石垣福雄著、北海道新聞社)という本の中で、道産子でもある著者は、「『手袋をハク』は相当早くから全道的に言い続けられてきた北海道方言である」と当然のごとく述べ、その理由として、厳寒の北海道ではハメルような薄手の手袋では到底耐えられないから、足袋と同様に綿入りの頑丈で厚い、大きな手製の手袋を深々とはかなくてはしのげなかったのであろう、と説明している。なるほど。卓説である。

  手袋を取る時は――標準語だと「はめる」の反対動作を示す「はずす」と言うそうだが、北海道弁では当然、「はく」の反対語の「ぬぐ」と表現する。

  ゴミを捨てる行為を指す「投げる」も北海道的な用法だ。実は私自身、長いことそう使ってきた。標準語と頭から思い込んでいたので、「ゴミを捨てることを、『投げる』とも言うの?」とウチの子から訊かれた時も「ゴミを不法投棄する、と『投げる』という字を使うだろう」と答えたものだ。

  長女が小学5年生の頃、札幌に転勤した。家族同伴だったので、子どもたちは札幌の小学校に転校した。そこで耳にしたのが「ゴミを投げて来なさい」「ゴミ投げ当番」という言葉だった。父親の「ゴミ投げ」表現に以前から違和感を持っていた娘は、その言葉の使い方が北海道弁であることにようやく気付いたというが、私は今でも「ゴミを投げる」とつい口にすることがしばしばある。

  「しばれる」「とうきび」などは全国的にも知られた北海道の方言で、語彙そのものが独特だが、「はく」「投げる」のように共通語の語彙を、ある地方独自の意味で使っている場合は、当の本人もその語法が方言である、ということになかなか気付かないものだ。

  (次回のブログは、このテーマの続編を予定)