「冥王星する」=to plutoの意味は?               

(第11号、通巻31号)
    いささか旧聞に属するが、英語で「冥王星」を意味する“pluto”という単語が今年1月の米国方言学会(ADS)で、2006年の“Word of the Year”(今年の言葉)に選ばれた〈注1〉。

    正式には、動詞として、つまり“to pluto/be plutoed”(降格させる/降格させられる、価値を下げる)という新しい意味を付加してのことだ。字句通り日本語にすれば、「冥王星する」「冥王星される」となる。昨年8月の国際天文学連合総会で冥王星が「惑星」から「矮(わい)惑星」〈追補〉に格下げされたことに由来している。

    “Word of the Year”、は日本で言えば「流行語大賞」のようなもの、との説もあるが、ウェブサイト“AstroArts”によれば、米国方言学会は117年の歴史を誇り、現在、言語学者や辞典編集者、歴史家、作家などが会員に名を連ねる学会だという。

    そのせいか、メールマガジン「辞書にない英語で世界がわかる」113号には、“pluto”を動詞化した、次のような例文がさっそく紹介されている。
        He was plutoed like an old pair of shoes.
       (彼は履き古された靴みたいに降格させられた)
    
    確かに辞書にはまだ収録されていないようだ。今年2月2日に発売されたばかりの英和・和英データベース『英辞郎』第3版(アルク社)にも動詞の意味は見当たらない。

    名詞の動詞化の例としては“Google”〈注2〉も最新の言葉の一つだろう。今やインターネットの検索エンジンの代名詞的存在となり、それを裏書きするようにgoogleという語は、単に一つの商標を表すだけでなく、「(グーグルなどで)検索する。調べる」という動詞の意味でも使われるようになった。これは、「150万項目収録」を豪語する『英辞郎』にも載っている。また、今年2月1日付けで発行された『ロングマン英和辞典』には、“be/get googled”で「(ホームページなどが)アクセスされる」というコロケーション〈注3〉まで掲載されている。

    日本でもかつて、“怪物”江川卓投手が巨人入りする際の騒動で、「えがわる」という言い方が話題になったことがある。「わがままを押し通す。だだをこねる」といった意味で使われた。[体言+る]で動詞にする例は今に始まったことではない。「皮肉る」「愚痴る」「野次る」などのような俗語的な用法もそうだ。比較的新しいところでは、「事故る」「パニクる」などの例もある。


〈注1〉BBCのホームページ(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/6240055.stm)参照。

〈注2〉『リーダーズ英和辞典』(研究社)や『ランダムハウス英和大辞典』(電子版)によれば、“google”という語は、「のどぼとけ」という意の古語のほかに、クリケット競技用語として「変化球を投げる。ボールがグーグリ(緩曲球)になる」という意味の動詞で使われる、とある。

〈注3〉このような名詞の動詞化は、格別珍しいことではない。例えば、建築・土木工事の材料の“cement”は、動詞として「セメントを塗る、セメントで固める」という意から「(友情などを)固める。絆を深める」という比喩的な意味でも使われる。

〈追補〉「矮惑星」は“dwarf planet”を字句通りに和訳した仮の名称だが、上記のブログを発信した翌日の22日付け朝日新聞によると、日本学術会議小委員会は21日、「矮小」などと否定的なイメージがある「矮」は使わず、「準惑星」と表記するのが適当との報告書をまとめた。アサヒ・コムhttp://www.asahi.com/science/news/TKY200703210203.html)参照。