「春一番」の春の嵐

(第6号、通巻26号)
  これまで2回にわたって北海道弁と共通語のズレについて書いてきたが、今回は視点を変えた話題を。きょう14日、西日本、東日本の各地で「春一番」が吹き荒れた。激しい雨も伴う嵐の一日だった。春一番というと、春先の晴れた日に吹く強い南風、というイメージを持つが、実際には今年に限らず、海も山も大荒れとなることが少なくない。ところが、漁業の盛んな地域が多く天候に敏感なはずの北海道で、春一番を意識した方言は聞いたことがない。

  気象庁によれば、春一番に認定されるには、次の4条件〈注1〉をクリアしなければならないという。

 1 立春から春分までの期間に
 2 日本海に低気圧があり
 3 強い南寄りの風(風向は東南東から西南西まで、風速8メートル/s以上)が吹 いて
 4 気温が前日より上昇する

 上記の4条件を満たしたその年最初の風を「春一番」として気象庁が発表するのである。

  かつて私は小学生から中学生時代にかけて「お天気博士」、今でいう「気象予報士」気取りで毎日定時に、NHKラジオ第二放送の「気象通報」を聞きながら天気図を書いていたものだが、当時は春一番なる用語は知らなかったと思う。

  『朝日小事典 日本の四季』〈注2〉には、「昔から壱岐で春に入り最初に吹く南風を春一番と呼んでいた。近年になって、語感のよさから、天気解説に使われ、春の最初の強い日本海低気圧に吹き込む南の強風を指すようになった」とある。

 この項の執筆者の倉嶋厚氏は続いて、次のような味のある言葉を紹介している。

  [天気図できめた春一番の平均日は2月22日、一番、二番と数えて春三番のころは桜の花が散る。春三番が「花起こし」で、四番が「花散らし」の年もある]

  春一番は季節の変化を伝える便りであると同時に、今日(2月14日)の天気のように「春の嵐」にもなるわけだ。吹雪の青森・八甲田山系では、雪崩で犠牲者も出た。

  春一番の語源については、気象庁のホームページ〈注3〉によると、石川県能登地方や三重県志摩地方から西の各地で昔から使われていたなど様々な説があるが、その中で有力なのは、上記にもある壱岐説。1859年(安政6)旧暦2月13日に長崎県五島沖で漁民53人が春の強い突風で遭難、この時から漁民の地元の壱岐市郷ノ浦元居地区では春の始めの強い風を恐れて「春一番」と呼ぶようになった、とされ、元居公園に「春一番の塔」〈注4〉が建てられている。

  しかし、春一番は日本全国で吹くわけではない。気象庁が、春一番として発表するのは、九州南部、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北陸、関東の8地方だけ。言い換えると、残る北海道、東北、沖縄地方には春一番がない、ということになる。道産子の“豆お天気博士”が知らなかったのも無理はない。


〈注1〉これは関東地方の場合。地方によって基準が若干異なる項目もある。例えば、中国地方は、風速10メートル以上、気温が前日より3℃以上がり、10℃以上であること、と厳しくなっている。

〈注2〉荒垣秀雄編、1976年10月15日、朝日新聞社発行

〈注3〉「こんにちは!気象庁です!」http://www.jma.go.jp/jma/kishou/jma-magazine/index.html

〈注4〉「ながさき旅ネットhttp://www.nagasaki-tabinet.com/spot/archives/1700009