「キャラがたつ」、「アベしちゃう」――政局が広める?“流行語”

(第38号、通巻58号)

    安倍晋三首相の突然の辞意表明から自民党総裁選、福田康夫新首相誕生までの過程で、二つの言葉が話題になっている。政治そのものの本筋とは離れた脇道でのエピソードだが、その一つは「キャラがたつ」。

    一般的にはあまり馴染みがない言葉だろう。首班指名選挙に先だって行われた自民党総裁選で、福田氏の対立候補麻生太郎氏が街頭演説やテレビのインタビューの際、盛んに口にしたフレーズだ。たとえば、こんな具合に使われた。「最近、少々キャラが立ちすぎて永田町の古い自民党の方々にあんまり評判の良くない麻生太郎です」。

    キャラとは、キャラクターの略語とまでは見当がついた。しかし、「キャラが立つ」とはどういうことなのか。私にとっては初めて耳にする言い回しだ。福田氏もよく分からなかったらしい。総裁選中、テレビ局で麻生氏と呉越同舟した福田氏は、出演の合間の楽屋裏で、麻生氏にどんな意味なのか尋ねた。「ウーン」と一瞬戸惑った麻生氏が「20世紀の言葉で言えば、個性的、かな」と答えると、福田氏は「じゃあ、ボクは個性的じゃないから、普通、だな」。

    麻生氏のジョークにならうなら、「キャラがたつ」は“21世紀の新語”ということになってしまうが、事情通によると、漫画界を中心に相当以前、つまり20世紀末から使われていた言葉らしい。「はまログ」《注》などいくつかのサイトの情報を重ね合わせると、「劇画村塾」を主宰する漫画原作者小池一夫氏が漫画論の中で言い出したのが最初で、もともとは「登場人物に個性を付ける」「登場人物の持ち味」というほどの意味だったようだ。そこから「個性的」「目立つ性格」というような意味にも使われるようになった、と思われる。

    もう一つの話題の言葉は、「アベする」。昨日25日付け朝日新聞朝刊の社会面「おわびで幕」という見出しのトップ記事に、あるコラムニストの言として「『アタシ、もうアベしちゃおうかな』という言葉があちこちで聞こえる。仕事も責任も放り上げてしまいたい心情の吐露だ」とのコメントが引用されていた。「アベしちゃう」とは「アベする」のくだけた形だろう。

    実際に日常会話で使われているのかどうか、私自身はまだ直接聞いてはいないが、インターネットで「アベする」を検索してみたところ、確かに「職場放棄する。職責から逃げる。登校拒否する」などの例が早くも出ていた。「体言+(す)る」で動詞を造語する方法は、当ブログの3月21日付け号でも紹介したところだが、いいイメージの言葉はどうも少ない気がする。それはともかく、「キャラがたつ」と共に一気にブレイクし、2007年後半の流行語になるかもしれない。


《注》 「はまログ」(http://blogs.dion.ne.jp/hamalog/archives/2007-01.html)の1月21日号