「閑話休題」。さて、ところで…

(第83号、通巻103号)
    本来の意味と逆に取られることの多い慣用句として「情けは人の為ならず」とか「流れに棹さす」、「気が置けない」などがしばしば例に挙げられるが、「閑話休題」も誤用されているとは思いもよらなかった。
    この言葉は、文章や講演などではよく使われが、日常会話で口にされることはあまりないのではあるまいか。それもあって「閑話休題」という成句の存在を知っている人なら用法を間違うはずがない、と思いこんでいた。
    ところが、「ブログの遊歩道」を散策しようとウエッブサイトをブラウズしていたら、題名からして明らかに誤解しているサイトにぶつかった。しかも、ご丁寧に「閑話休題、というのはちょっと休憩の意味で話題を変える時などに使用する慣用語です」との解説付きだ。
    もちろん、本来の意味は逆である。本題から話がそれて脱線したのを元に戻す、言い換えると、余談をやめて本筋の話題に戻す時に接続詞的に使う言葉だ。辞書を引くと、「さて」「ところで」とか、「それはさておき」(『三省堂国語辞典』第6版)と簡単な語釈しか載せていないのもあるが、これでは不十分。「ちょっと休憩の意味で話題を変える時」に使う言葉と誤解されてもやむを得ない。
    本来、「閑話」は暇な無駄話、「休題」は、それまでの話題を中止すること、を指す(小学館大辞林』第3版)。『研究社 新和英大辞典』第5版を見ると、日本語の元々の意味がかえってよく分かる。‘But let’s get back to the point’、‘But to return to the subject’と出ている。要は、本題に戻る、ということだ。
    「閑話休題」の周辺を探っていて驚いたのは、読み方だった。私自身はハナから「かんわきゅうだい」としか読みようがないと決めこんでいた。しかし、『新潮日本語漢字辞典』を引いて、「それはさておき」と並んで「あだしごとはさておいて」《注》という訓読みもあることを初めて知った。「‘日本語の漢字’を引くための初の辞典」の謳い文句で昨年秋の発売直後から好事家の話題を集め、しばらく品切れが続いた人気辞典だけのことはある。


《注》 『日本国語大辞典』第2版(小学館)によれば、「あだしごと」とは、「徒事」と書き、「むだなこと。つまらないこと。不必要なこと」をいう。