「除夜」と「元旦」をまたぐ12時

(第104号、通巻124号)
    きょうは12月31日。大晦日の夜の12時は2008年(平成20年)に属するのか、それとも2009年(平成21年)になるのだろうかと、ふと疑問に思った。大げさに言うと、「除夜(大晦日の夜)」と「元旦(元日の朝)」をまたぐ「12時」または「0時」は、どちらの年に帰属するのかという問いかけである。トリビアとしては面白い題材だが、説明するとなると少々ややこしい。
    それは、「午前」はいつから始まりいつ終わるのか、「午後」についてもいつから始まりいつ終わるのか、人によって受け止め方が違うばかりでなく、法律的にも定義が微妙だからだ。
    まず例によって、辞書に当たってみよう。国民的国語辞典をもって任じる『広辞苑』第6版(岩波書店)には、
  【午前】夜の12時から正午までの称。また、夜明けから正午まで。
  【午後】正午から夜の12時までの称。また、正午から日の暮れるまで。
とあり、また日本最大の『日本国語大辞典』第2版(小学館)にも、
  【午前】「午は午(うま)の刻」で正午《補注》をいう。夜の12時から正午までの時間。 
  【午後】 ( 〃 ) 正午から夜の12時までの時間。
とほとんどまったく同じ語義が載っている。しかし、上記の説明では「夜の12時」は午前でもあり、午後でもあることになる。「正午」についても同様だ。
    では、法的にはどうか。実は法的側面からの問題については、独立法人情報通信研究機構の周波数標準課のサイト《注1》に詳しく述べられている。それをかいつまんで言うと、午前と午後を定義している法律は、明治5年に出された「改暦ノ布告」《注2》だそうだが、この法律にも問題があるという。夜の12時については午後12時、午前零時のどちらでもいいように解釈できるが、昼の12時については「午前12時」だけしか示されていないからだ。しかし、正午を「午前12時」と表現するのには個人的にはついていけない。ただ、正午を1秒でも過ぎれば「午後」になるという。
    新聞やテレビでは、昼の12時を「正午」と表現し、12時台は「午後0時20分」、1時台以降は「1時10分」という具合に言うのが普通だ。しかし、夜の12時については「31日午後12時」などとはしないで、「1日午前0時」のように表す。ただし、期限を示すときは例外で、「深夜営業は午後7時から午後12時まで」などと「12時」を用いることもある《注3》。
    ところで、「正午」の反対語は、「正子(しょうし)」という。あまり用いられない言葉だが、「子は十二支の子(ね)の刻」《補注》を指す。この単語を『広辞苑』で引いて初めて自分なりに得心がいった。そこには、
  【正子】太陽が地平線下において子午線を通過する時刻。午前0時。一日の起点。
とあった。この語釈に従えば、「夜の12時」は「午前0時であり、一日の起点」になる。つまり、大晦日の夜の12時は、2009年の元日の午前0時であり新年の起点というわけだ。除夜の鐘は108回のうち107回は旧年のうちに突き、最後の1回を年が明けてから突くとされている。「終わり」がすなわち「始まり」なのである。


《注1》 http://jjy.nict.go.jp/QandA/FAQ/12am-or-0pm-J.html
《注2》 http://www.ron.gr.jp/law/law/kaireki.htm
《注3》 『使いこなせば豊かな日本語』(NHK出版)
《補注》 「午の刻」は現在の午前11時頃から午後1時頃までの2時間にあたる。その「まさ(正)」に真ん中を「正午」と呼んだ。同様に「子の刻」は現在の夜12時をはさんだ2時間のこと指すことから、その中間を「正子(しょうし)」と呼んだ。