「真逆」とは言い得て妙?!

(第79号、通巻99号)
    「心に残る日本の歌」という惹句にひかれて先週金曜夜、テレビ東京のバラエティ番組を見ていたら、司会者の女性が、ある歌と別の歌との曲想の違いを言うのに「まぎゃく」という“新語”を口にした。漢字で表記すれば「真逆」。この言い方があるとは聞いていたが、直接、しかもテレビで耳にしたのは初めてだったので、少々驚いた。前後の言葉は正確に憶えていないが、「〜とは“真逆”の歌」というような文脈で使われていたように思う。
    「辞事典総合サイト」を標榜する『ジャパンナレッジ』(会員制)で検索したところ、「現代用語の基礎知識」に「正反対。まったくの逆方向」と載っていた。むろん、普通の辞書には収録されていないが《注》、「真逆」は、「真」という漢字自体の意味からすると、あながち誤用とは言えない気がしてきた。
    『新潮日本語漢字辞典』には、「全く完全にその状態である。混じりけがない」との語釈に続けて多数の熟語が紹介されている。「真紅・真空・真水・真昼・真夏・真新しい・真一文字・真っ暗・真っ黒・真っ逆様・真ん中・真ん丸……」。
    このような造語成分としての接頭語の「真」の発音については、『新明解国語辞典』に詳しい。「カ行音・サ行音・タ行音・ハ行音の造語成分に続く時は『まっ』、ナ行音・マ行音で始まる造語成分に続く時は『まん』となる」と説明されている。
    いずれも、後に続く言葉の程度を強調したり、限定したりするのに使われる。
    色について言えば、「真っ黒」のほか、「真っ白」「真っ赤」「真っ青」「真っ黄色」がある。ただ、不思議なことに中間的な色、例えば「黄緑」とか「桃色」「灰色」などには「真」がつかない。
    しかし、『問題な日本語』(大修館書店、北原保雄偏)によれば、中間色の「真っ茶色」は誤用ではなく、「まっ」という接頭語の用法が拡大して生まれた用法という。その伝で言うと、「真逆」は中間色ではなくいわば原色にあたるのだから、本来の「真」に近い用法になる。
    「まさか」という声も聞こえてきそうだが、『大辞泉』(小学館)の「まさか」の項には、「真逆」とも当てて書く、とある。

《注》 こう断定的に書いたのは確認不足だった。このブログを発信して6時間後、新語採録に定評のある『三省堂国語辞典』第6版(2008年1月10日発行)に念のため当たってみたところ、「真逆」が見出し語として載っていたのである。「俗」としながらも、「名詞、形容動詞(ダ型活用)」として「まったく逆。正反対」と語義を示し、「自分とは真逆の性格」との例文まで添えられているのには驚いた。早合点を恥じるばかりだ。