「雨模様」とは、降っているのか、いないのか

(第59号、通巻79号)
    
    文化庁の「国語に関する世論調査」(平成15年度)には「雨模様」の意味を尋ねる質問もあった。設問に添えられた例文は「外は雨模様だ」というものだ。この文の回答は、1)「小雨が降ったりやんだりしている様子」45.2パーセント、2)「雨が降りそうな様子」38.0パーセント、3)「分からない」1.1パーセントだった。文化庁が、本来の意味、としているのは、2)の「雨が降りそうな様子」である《注1》。

    現実にはどんな使い方をしているか。試みにインターネットで「雨模様とは」を検索してみたところ、「前日(昨日)までの雨模様とはうって変わって青空が……」という表現が枚挙にいとまないほど出てくる。ほとんど定型化しているといってもよい。また、「雨模様」を対象にした検索では、「昨日とは一転、朝から生憎の雨模様……」などと「今、現に降っている」という意味での言い回しが目立つ。

    各種の辞書を引き比べてみると、「雨模様」という語句は一筋縄ではいかないことが分かる。まず発音。「あめもよう」と言う人が多いと思われるが、「あまもよう」という読みもある。また「雨催い(ひ)」と表記して「あまもよい」「あめもよい」「あまもやい」という読み方も載っている。しかし、意味は「どんよりと曇って、雨の降り出しそうな空の様子」で《注2》、文化庁の正解例と一致している。言い換えると、「まだ雨は降っていない」状態を指すのが一般的な解釈だ。    

    けれども、最近は、「今にも雨が降り出しそうな空の様子」と並べて「雨が降ったりやんだりすること」という語義を認める国語辞典が増えてきた《注3》。だから一概に1)を間違いと断定することはできないわけだ。NHK放送文化研究所編の『つかいこなせば豊かな日本語』(NHK出版)によれば、「“もよう”は、和語の“催い(もよい)”が変化したもので、“〜となりそうな状態”の時に用いるのが本来の用法だが、今では、すでに小雨が降っている場合にも放送で使っている。意味があいまいで解釈が分かれる表現なので、天気予報では使わない」という。

    ところが、ところが、である。なんと第3の語義を挙げている辞書があった。「他の地の雨天を推測して言う語」という説明だ。そして「今ごろ山あいは雨模様だろう」との文例を添えている《注4》。たしかに、そんな使い方をする時もある。まさに虚を突かれた思いがした。雨模様の意味はまるで「モザイク模様」のようだ。


《注1》 その他の答えがあるので合計は100パーセントにはならない。

《注2》 『日本国語大辞典』第2版、『大辞林』第2版(三省堂)、『広辞苑』第6版(岩波書店)、『岩波国語辞典』第5版、『新明解国語辞典』第5版(三省堂)など。

《注3》 『ベネッセ表現読解国語辞典』、『三省堂国語辞典』第6版、『現代国語例解辞典』第4版(小学館)など。

《注4》 『明鏡国語辞典』(大修館書店)