「生保」を「ナマポ」と読むなんて!

(第280号、通巻300号)

    東京・秋葉原の街頭で若者たちに「生保」と書いた文字を見せ、どう読むかインタビューしているテレビ番組があった。ほんの数日前のことだ。途中から覗いたテレビだったので、番組の前後の流れが分からず、地名のテストかと勘違いして頭の中に一瞬「おぼな」と言う読みが浮かんだ。秋田県田沢湖近くに「生保内」と書いて「オボナイ」と呼ぶ町(秋田県仙北市)があるからだ。

    けれども、テレビの画面で示されていたのは「生保」と2文字。「内」という字が抜けている。とすれば、私の常識では「セイホ」としか読みようがない。言わずもがな、生命保険の略だ。なのに、マイクの前で若者たちは誰もが「ナマポ」と言うではないか。中には、恥ずかしそうな、照れくさそうな表情を見せる人もいたが、「セイホ」と言った若者は登場しなかった。

    お笑いタレントの母親の生活保護費受給問題を取り上げた番組の狙いから言えば、生保は「ナマポ」と読むのが正解なのだという。各種辞書にあたったが、ナマポなんていう語を掲載しているものはなかった。ところが、ネットで検索すると続々出てきた。その一つ、「しょこたん専用ザク」なるサイト《注1》によれば、ナマポとは、生活保護および生活保護受給者のこと。生活保護の「生」が「ナマ」と読め、「保」が「ポ」と読めることから生まれた読み方とか。2004年には、インターネット上で使われているという。いわば、ネット用語だ。

    しかし、「生」をナマと読むのはともかく、「保」をポと言うのは納得出来ない思いだった。権威ある漢和辞典『字通』(白川静著、平凡社)を紐解いても「保」の読みとしては、「ポ」はなかったが、辞書をいろいろ引いているうちに「担保」の場合は「保」をポと読むのに気づいた。つまり、ホが音韻変化(音便化)したのだ。

    「同人用語の基礎知識」《注2》によると、インターネットや携帯電話からから生まれる新語は膨大な数にのぼるようだ。そうしたネット言葉自体を「ネットスラング」とか、それを短縮して「ネスラ」とか呼ぶという。私の常識をはるかに超えた世界でとてもついていけない。


《注1》 「ナマポの意味」(http://news2ch.com/2285.html
《注2》 「ネットスラング/ネット用語」(http://www.paradisearmy.com/doujin/pasok_net_slang.htm