「うるう年」の「閏」の意味は?

(第285号、通巻305号)

    メディア論から江戸地理、天文学まで博覧強記の友人から「7月1日です。2012年も折り返し点。本当に時間の流れは速いですね。今年は2月29日がありました。そして本日うるう秒の1秒が加わりました。例年より1日と1秒長い筈なのですが、時間はそんなものをすっ飛ばして走っていきます」というメールがその日、届いた。

    確かに今年は、オリンピックの年だから2月は29日まであった、という程度の知識の私だから、この7月1日の午前8時59分59秒の後にふだんは使わない「60秒」を「うるう秒」として挿入するとは事前に知らなかった。科学的な論拠はともかく「うるう秒」が導入されたのは1972年からで、今回は3年半ぶりのこという。うるう秒、うるう年の「うるう」は漢字では「閏」と書く。潤いの「潤」から「氵」を取った字で、門の中に「王」だ。

    ふだんはお目にかからない漢字なので、そもそもどんな意味なのか見当もつかない。『字通』(平凡社)など漢和辞典によると、「閏」は音読みで「ジュン、ニン」、訓読みで「うるう」といい、「正統に対して、正統でないもの。余分なもの」の意味があるという。言ってみればイレギュラーといことか《注1》。なのに、なぜ、王の字を使うのか、と不思議に感じて『日本国語大辞典』第2版(小学館)などいろいろ調べたてみたところ、次のようなことが分かった。

    中国では古来、王は通常、宗廟にいて執務するが、暦からはみ出た日(閏日)には門の中に閉じこもって政務を休み、静養する。このことから「いつもののことからはみ出す。不正規」という意味が生じた。

    元々、うるう年は、暦と実際の季節のズレを調節するために、4年に1度、2月に1日を加えて29日とした年のことを指す。うるう日は、その29日のことだ。

    では、うるう秒とは。きわめて正確な原子時計で定義される時刻と、少しずつ遅くなる潮の干満の影響でブレーキがかかり少しずつ遅くなる地球の自転で決まる時刻とのずれは、遡れば秒のレベルで起こっている《注2》。ズレを放ったまま帳尻を合わせておかないと、600年から700年後には30分から1時間ほどにもなり、遠い将来「正午なのに真っ暗」という事態が現れる、という計算もあるとか。「たかが1秒、されど1秒」である。

《注1》 「閏位」(じゅんい)=正統でない天子の位。「閏刑」=(じゅんけい)江戸時代以前、僧侶・老幼・婦女・身障者などに対して、正刑に代えて科した寛大な刑。いずれの関連語も『新潮日本語漢字辞典』による。

《注2》 今年のうるう秒では、世界的にコンピューターの誤作動が一部で発生した、という報告がある(「米wired」http://www.wired.com/wiredenterprise/2012/07/leap-second-bug-wreaks-havoc-with-java-linux/)