Re:「ご返事」か「お返事」か

(第264号、通巻284号)
    
    “再録シリーズ”第4弾は、前回取り上げたEメールの“Re:”の続き、Eメールの返信に対する礼状の書き出しの言葉についてがテーマだ。「早速のご返信」か「早々にお返事をいただき……」とすべきか。「ご」か「お」か迷うことがないだろうか。
    
    Eメールに限らない。私などは、普通の手紙やハガキでも思い悩む。それでも日本語を母語とする人であれば、自分の語感を頼りに、あるいはその時の気分で適当に書けばいいが、外国人に日本語を教える日本語教師にとってはゆるがせにできない問題だ。そんな教師と日本語学習者のために作られた『日本語文型辞典』(くろしお出版)という本がある。同書の「お〜」と「ご〜」の形を説明しているページでは「行為を表す漢語名詞とともに使う時は、『ご〜』の場合が多い」としている。
   
     実は「ご」と「お」の使い分けについては、基本的なルールがある。『明鏡国語辞典』(大修館書店)の編者・北原保雄筑波大名誉教授によれば、
  「ご」は中国から伝来して日本語になった漢語に付く(訓ではなく音読みする)。
  「お」は漢語が渡来する前から日本にあった和語(やまと言葉)に付くのが原則(当然、訓読みする)という。
    
    思いつくままに例を挙げると、健康、安心、心配、満足、苦労、結婚、出産、指摘、契約、希望……。これらは「ご健康」「ご安心」「ご心配」「ご苦労」「ご結婚」「ご指摘」「ご契約」「ご希望」というように「ご」を付ける。一方、「お」を付ける語としては、体、願い、怒り、許し、礼、土産、人柄、知り合い……などがある。「お体」「お願い」「お怒り」というように「お」を冠してもまったく自然だ。
    
    以上のようなルール通りの語ばかりだと、このブログにわざわざ取り上げる意味はないのだが、実は言葉の世界の実情はそう簡単に割り切れない。漢語でも「お」を付けるもの、逆に和語なのに「ご」を付けるものや、どちらを使ってもあまり違和感のないもの、など例外がきわめて多いのである。その一例が今号のブログのタイトルにとった「返事」である。
   
     返事という語の出自は漢語だから、ルールに従えば「ご返事」とするのが自然である。しかし、今号のブログのタイトルからお分かりのように、「お返事」とするする人も少なからずいるのである。
    
    『明鏡国語辞典』の編集部が「お」と「ご」の使い分けについてアンケートを取ったところ、「お」派が53.6パーセントと多数を占めたものの、「ご」を使うと答えた人も22.6パーセントいた。これに「どちらでもよい」という人23.6パーセントを加えると、46.4パーセントになる。「お」派と「ご」派は、ほぼ半々とみることもできる。
   
     同じような「相乗り」語には、お誕生―-ご誕生、お相伴―-ご相伴、お入り用――ご入り用、などがある。どんな語が相乗り出来るのか。そもそも規則性があるのか。次回はもう少し詳しく見てみよう。