「チカメシ」「ヨコメシ」「タテメシ」 

(第317号、通巻337号)

    松の内が過ぎたころ、昨年5月まで2年間、地域活動を共にした知人と久しぶりにたまたま出会った。知人との話が、立ち話にしては長引きそうな雲行きになったので、「(話の続きは)近いうちに一献傾けながらでも」と口にしたところ、「チカメシはあてにならないからね」という。「今月は予定が立て込んでいるから、じゃあ2月中にぜひ」と口約束した。が、2月も半ばを過ぎたのに、まだ実現していない。

    「チカメシ」はたしかに、「挨拶」代わりなのか「近いうちに飲もう」とよく口にする同僚がいた。10年以上も会っていない旧友とかわす年賀状で毎年のように「今年こそはぜひお会いして一杯やりたいものですね」とやりとりをする例も珍しくない。「チカメシ」の類だろう。半ば本心だが、大人の社交的な会話という側面があることもまた否定できない。

    同じ「〜メシ」でも「ヨコメシ」となると、別のカテゴリーになる。私が使っていたのは、『岩波国語辞典第 第7版』にある「よこめし【横飯】」の意味だ。すなわち「外国語を話しながらの食事。特に、欧米人と職務で会食すること」である。接待を兼ねたような場合だと、すき焼き、寿司、天ぷらなどの和食になることが多く、食材やその料理の文化について質問の矢をあびることになり、食事を味わうどころではなくなる。「しらたき」とか「しゃこ」とかを英語で説明するとなると四苦八苦する。

    「ヨコメシ」の私のイメージは、上記の岩波国語辞典の記述と同じだが、『三省堂国語辞典 第6版』では、外国語で会話しながら、などという状況に一切触れず、「西洋料理。洋食」とあっさり。対義語として「縦飯」(タテメシ)を添えている。『新明解国語辞典第7版』(三省堂)も同じ趣旨だがもうちょっと丁寧に「(和食に対して)洋風の食事の俗称(「横」は横文字に由来する。この表現をもじって和食を「縦飯」と呼ぶ向きもある)」としているが、ただし、同辞典には「縦飯」の見出しはない。

    ヨコメシについては、職場で同僚との横のつながり同士で食事をすること、タテメシについては、和食の意の他に、上司や部下と共にする食事、と解説する人もいる。

    正直に言うと、「ヨコメシ」にしろ「タテメシ」にしろ、『広辞苑』(岩波書店)にも『明鏡国語辞典』(大修館書店)にも掲載されていないので、国語辞典で扱われる言葉でない、と思い込んでいた。ところが、実際には『日本国語大辞典』や『大辞泉』(共に小学館)にも収録されていた。辞書はマメに広くあたるべきだと改めて痛感した。