音羽御殿での「鳩首協議」

(第316号、通巻336号)

    義父が元総理、夫は元外相。ご自身はブリヂストン創業家の長女として生まれた。鳩山由紀夫元首相と邦夫元総務相の母としても知られる鳩山安子さんが11日死去した。享年90。その経歴から“ゴッドマザー”の異名でも呼ばれた。

    鳩山家と言えば、日本を代表する華麗な上流階級の一族であり、大富豪である。同時に思い出されるのが、東京・文京区の通称「音羽御殿」だ。安子さんの夫・威一郎氏の父の元首相・鳩山一郎氏の私邸として建てられた洋館だが、1950年(昭和25年)一郎氏が政界再編に動いたころ、この会館が政治家の会合の場所としてしばしば使われたという。

    その印象が強いせいか、あるいは「鳩」の文字のせいか、私などはつい「鳩首(きゅうしゅ)協議」という言葉を思い浮かべてしまう。それも「首」の字に引きずられて「首脳」と結びつけ、「鳩首協議」とは、偉い人たちが急きょ集まって会議を開くというイメージだ。
    
    とんでもない誤解だった。漢和辞典を引いてみたら、「鳩」という字には、鳥のハトの意のほかに、「集める。集まる」の意味もあることが分かった。「鳩首」で首を集める、すなわち人々が寄り集まって相談することを指す、という。「閣僚が鳩首協議する」という具合に使われる。現在は、鳩山家の業績を伝える記念館「鳩山会館」と衣替えしている。

    安子さんの死去について、鳩山由紀夫元首相は「父、私、弟を政治家に導いてくれたのは母だった」と語り、弟の邦夫氏も「ゴッドマザーと呼ばれたが、(息子が)政治決断する時、こうしなさいと言われたことはない。とにかく心配ばかりする人だった」と振り返った。

    『明鏡国語辞典 第2版』(大修館書店)によれば、「鳩に三枝(さんし)の礼あり」との言葉が中国の古典にあるそうだ。ハトの子は親のとまる枝から三枝下にとまるということから、「子は親に対して礼を重んじ,孝を尽くさなくてはならないことのたとえ」という。