「当面の間」という表現もあるのか

(第220号、通巻240号)  
    東日本大震災は、津波による惨禍に加え、原発からの放射線漏出問題もあって様々な地域の暮らしにも大きな影響を及ぼしている。スポーツ大会の延期やイベントの中止も相次いでいる。桜の開花の報を聞く時季だが、とても花見を楽しむという気分にはなれない。先日、桜の名所の一つ、東京・上野公園内にある学校に所用があって出かけた。JR上野駅の公園口を出るとすぐ目に飛び込んできたのが、上野動物園の臨時休園を知らせるポスターだった。
    「上野動物園は3月17日より当面のあいだ、休園させていただきます。ジャイアントパンダは、上野動物園の再開にあわせて公開とすることにします」と書かれていた。「当面のあいだ」は「当面の間」と漢字表記の方がまだいいと思うが、それにしても「当面の間」という言い方に違和感を覚えた。ここは「当分の間」とするべきではないのか。
    ポスターの作成者がうっかり書き間違えたのではないか、とも考え、「ZOO NET」の上野動物園公式サイトにあたってみた。が、うっかりミスではなかったことが確認された。サイトには、「臨時休園のおしらせ」と題し、「上野動物園多摩動物公園葛西臨海水族園井の頭自然文化園は、地震の影響などにより、3月17日(木)から当面のあいだ、休園いたします。再開園の時期につきましては、あらためてお知らせします。また、閉園にともない、3月22日(火)に予定しておりましたジャイアントパンダの公開も延期いたします。ご了承ください」と明記されていた《注》。
    こういう時は「当分の間」あるいは単に「当分」とするのが普通だろう。「当面」は、『岩波国語辞典』第7版によれば、「現在直面していること。さしあたり」が本義で、例文として「当面の目標」が載っており、さらに「副詞的にも使う」と補説を加え「当面、問題は起こらないだろう」との文例を挙げている。しかし「当面の間」を見出し項目に掲げている辞書は、『岩波国語辞典』に限らず、私があたった数種類の国語辞典にはなかった。
    「しばらく」の意で「〜の間」とするのは、「当分」の方だけであろう。「当分の間、寒い日が続くでしょう」とは言っても「当面の間、寒い日が続くでしょう」とは言わない。
    まじめな話、当面の緊急な課題は福島原発放射能漏出を一刻でも早く食い止めて、国民の不安を鎮めるめることだ。こんな事態が当分の間続くことは許されない。


《注》 このブログを書いている最中の3月29日深夜、確認のため「ZOO NET」サイトをのぞいたら「上野動物園は4月1日から開園します」と更新されていた。しかし、更新前のサイトと上野駅前の掲示に「当面のあいだ」とあった事実には変わりない。それを裏書きするように、「17日から臨時休園」を報じた毎日新聞の3月16日付けウエブニュースにも「当面の間」と掲載されている。