被曝と被爆

(第221号、通巻241号)  
    筑波研究学園都市が出来て間もないころ、学園都市内の研究所などの施設を見学する機会があった。その一つ、建設省(当時)の土木研究所で「曝露(ばくろ)試験」なるものが行われていた。ペンキや建築材料が陽光や風雨にさらされた場合、どんな変化を起こすかを調べる実験だった。ただ、「曝露」の「曝」という漢字にひっかかりを感じた覚えがある。
    「ばくろ」の「ばく」なら、普通は「暴」という漢字を思い浮かべる。「曝」には「さらす」という意味があるからだ、と聞かされたような気がするが、今、新聞各紙には東日本大震災の大津波で壊滅的な被害をこうむった福島原発をめぐる深刻なニュースで毎日のように「放射能」と共に「被」という文字が出ている。広島や長崎で原爆の被害にあったことを「被曝」とも「被」とも言うが、どう違うかはあまり知られていないのではないか。
    新聞の用語辞典で調べてみると、「被曝」とは「放射線にさらされること」、「被爆」は「爆撃をうける。特に原水爆の被害を受けること」を指すとあり、文例として「広島・長崎の被爆者」と記されている。たしかに「被爆者健康手帳」と法律にも明記されている。「被爆」も「被曝」も同じように使われるが、放射能の被害を明確にしたい場合は「被曝」としているようだ。「曝」の字が表外漢字というせいもあるかもしれない。現に、新聞各紙では「被曝」にルビをふっている。中には、「被ばく」とひらがなで表記している新聞もある。
    白川静著『字通』(平凡社)によれば、「曝」の右側の「暴」は、獣の死骸が日にさらされている形から生まれた会意文字だが、暴が暴虐の意に使われるようになったので、本義を伝えるために「日」という字が左に付け加えられたという。また、「爆」の字も本義は暴と同じで、「獣の死骸が強い火で焼け散ること」の意に転化した、とある。
    してみると、ことさら「被曝」にこだわることはなかった。「被爆」でもよかったし、「被暴」でもよかったのかも知れない。
    今回の大震災は、自然が人間に対し、まさに暴虐の限りをつくして人間社会を根底から破壊した観がする。あまりにむごい。


《注》 googleで「ばくろ」を検索してみると、近年の建築、土木関係の材料試験などのリポート類では、「曝露」を使っているのはまれで、「暴露」を使っている例が圧倒的に多かった。
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