「派遣切り」が新語・流行語賞とは

(第153号、通巻173号)
    
    今年の世相を反映した言葉を選ぶ恒例の「新語・流行語大賞」で、大賞候補のトップテンに「派遣切り」が選ばれた。働く者を一方的に切り捨てる意味のこんなひどい言葉が新語・流行語賞とはあまりにも悲しい。
    
    「〜切り」という言葉は、どちらかと言えば、マイナスイメージが強い。ふだんはまず手にしない岩波書店『逆引き広辞苑』《注》を久しぶりに引いてみたら、語尾に「切り」と付く語が約150もあった。もちろん、ニュートラルな意味の単語もあるが、気のせいか、裏切り、縁切り、足切り、という言葉が目についた。
    
    この中で昭和50年代に生まれた比較的新しい語の「足切り」というのは、大学入試などで一定の点数・基準に達しない者を本試験の前にふるい落とすことを指す。差別語とまでは言えないかもしれないが、人に不快感を与え、品位を落とす、としてマスコミでは「二段階選抜」とか「門前払い」とか言い換えているところが多い。裏切り、縁切り、は昔からある言葉だが、派遣切り、とどこか通じる非情な響きが感じられる。
    
    派遣切りは、昨年の金融危機をきっかけとした世界的な不況で自動車メーカーや家電メーカーなど製造業の大企業が、自社の工場などで働く派遣社員を実質的に解雇することを指す。派遣社員は大企業に直接、雇用されているのではなく、形式的には派遣元の人材派遣会社の社員である。だから大企業側からみれば、派遣社員を解雇するのではなく、派遣元会社との労働者派遣契約を打ち切る形になるわけだ。それに伴い、派遣元の会社が、大企業に送り込んでいた派遣社員を解雇する。しかし、事実上は大企業が首切りしたも同然である。いわば、派遣社員に対する裏切りであり、一方的な縁切りだ。
    
    派遣社員の場合、正規社員と比べて元々、低賃金で不安定な雇用条件に置かれているが、問題を深刻化させているのは、大企業の寮に住んでいた人が多いことだ。派遣の仕事を打ち切られると、失職するだけでなく、家もなくなる。故郷などに自宅のある人はともかく、住所もなくなるのだ。「住所不定、無職」となれば、アパートを借りるのも、新しく就職先を探そうにも門前払いにされがちだ。
    
    前回のブログで取り上げたハローワークでの「ワンストップ・サービス」は、このような派遣切りにあった人たちの救済を主にした施策といえる。単に就職探しを支援するだけでなく、公営住宅の情報提供、住宅入居の初期費用の貸し付けや職業訓練の受講斡旋、生活保護の窓口案内まで行う。逆に言えば、派遣切りの背後には、それだけ広範囲で深刻な社会問題があるわけだ。

《注》 1992年(平成4年)11月発行。「さくら」を「らくさ」のように、言葉を終わりのほうから逆読みして50音順に並べた辞典。韻を踏む詩歌が盛んな英語や仏語などには昔からある。