「ワンストップ・サービス」は止まらない

(第152号、通巻172号)
    年末を前に失業者の就職と生活支援を一括して世話する「ワンストップ・サービス」の試行が11月30日から全国77カ所のハローワークで始まった。「ワンストップ」とは一般にはあまり聞き慣れない言葉だが、実はここ7、8年さまざまな分野で使われるようになってきたカタカナ語である。ひと言でいえば、あることに関連する複数の手続きやサービスを1度または1カ所でまとめて行うことだ。
    たとえば、引っ越し。新聞配達、中古品引き取り、引っ越し業者などの手配を一度に行う。あるいは、マイカーの買い換えに伴う煩瑣な手続き。車検、登録、保管場所証明、自動車諸税の納税などの手続きは、担当のそれぞれの役所へ出向いて行う必要があるが、ワンストップ・サービスは、オンラインで一括して済むようにしようというものだ。行政関係では、住民票や印鑑証明の交付、年金、福祉関係などに関連した手続きを一括して行う。そのほか、郵便関連業務やインターネットによるオンラインショッピング、さらには金融、保険、不動産業などでも使われている。
    それなのに、このワンストップという語、『知恵蔵』などの新語辞典には載っているものの、ほとんどの国語辞典にはまだ掲載されていないようだ。11月20日に刊行されたばかりの『岩波国語辞典』第7版もパンデミックコンプライアンス、地デジ、コピペ《注》などの新語を採録しているのに、ワンストップは収録していない。私が確認した範囲では、『三省堂国語辞典』第6版に、「(情報や商品などが)1か所に行けばそろうこと」とあっただけだ。
    言葉の響きからするとコピペなどと同じような和製カタカナ英語のようにも思えるが、れっきとした英語、厳密に言えば米語というから驚く。小型の英和辞典には載っていないものもあるが、『ランダムハウス英和大辞典』の“one-stop”の項には「形容詞。 一か所で何でもそろう[全て間に合う]。a store offering one-stop shopping(そこだけで買物が済む店)。[1934.米語]」と意味だけでなく初出の年も明記されている。
    この記述によれば、日本流に言うと昭和の代になってから生まれた言葉で英語としては比較的新しい。『コウビルド英英辞典』や『ロングマン現代英英辞典』なども参考に判断すると、最初は、ショッピングセンターを指す用語だったようだ。食料品から医薬品、衣料、電気製品、文房具、家具までワンフロアで買い物できる、つまり1カ所のレジで1度に精算できる大型小売店を意味していたのが、だんだん意味が拡大し、他の分野にまで派生したものと見られる。
    しかし、派生的な用法が日本独自のものなのか、本場の米国でも使われているのかは手元に資料がないので分からない。こういう調べ物も1度に出来る「ワンストップ・レファレンスサービス」でもあると便利だが、そう考える一方で、この程度のことで易(やす)きに流れては人間、さらに怠惰になるだけだ、と思い直した。

《注》 「コピペ」は、『岩波国語辞典』第7版の刊行に先だち出版元が「10年目の大改訂」と銘打って配布したPRパンフレットで売り物にしている新語の一つ。それだけに語義説明は実にきめ細かい。「〈俗〉(コンピューターを使って)他の文章や画像から必要部分の写しを取り、別の場所に貼り付けること。copy and pasteから」。