「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」とは言うが……

(第271号、通巻291号)
    
    万葉集に1番多く登場する花はハギ。140首余りあるという。次いで118首のウメ。意外なことにサクラは、ウメの3分の1しか詠われていない《注1》。しかし、現代日本でダントツに人気があるのはサクラだろう。

    桜と梅。二つの樹木の栽培について「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」《注2》という昔からの教えがある。つい先日の朝日新聞の「しつもん!ドラえもん」コーナーでも、このことわざを取り上げ「どうして桜は切ってはいけないの」と出題している。

    答えのページには「桜は切り口から腐りやすいから、あまり切らない方がいいんだよ。梅は適当に切らないと、枝が込み合いすぎて、よい果実がならないんだよ」とある。百科事典やウェブの関連サイトに当たってみても、同じような解説が記載されている。「桜は剪定しない方がよい。やむを得ず剪定するときには、切り口に殺菌剤の入った癒合剤(ゆごうざい《注3》を塗布する」。これに対し、梅は、切らないと枝が伸びすぎて樹形が乱れ、花が咲かなくなる、という。

    梅と反対に、桜の枝は、剪定してはいけないとされ、昔からそう言い習わされてきた。ところが、日本一の桜の名所とも言われる青森県弘前城公園の桜は、切ることによって優美に、しかも華やかになってきたという。

    桜はリンゴと同じバラ科の植物だ。青森といえば、日本一のリンゴの産地である。「弘前城」のホームページ《注4》などによると、ある時、弱った桜の古木の枝をリンゴの木の剪定法を使ってばっさり切ってみたところ、翌年から樹勢を取り戻し、より美しく花を咲かせ、見事によみがえった。それ以来、剪定に工夫を凝らした結果、木が元気になるばかりでなく、より多くの花芽がつくようになった、という。

    桜の花芽は、一般的には3〜4個と言われるが、弘前城の桜は5〜7個。ほぼ2倍。だから、弘前城の桜は「見た目にもこんもりとボリュームがあり、ゴージャスな様相を呈する」とホームページで自賛している。

    だからと言って、桜も梅のようにどんどん切ればいいというものではなく、樹齢を重ねて弱ってきた枝だけを剪定する。すると、そこから新しい芽が出てくるのだとか。

   格言、ことわざには、確かに先人の知恵が詰まっているが、いつでも絶対的、ということはないのだ。
 

《注1》 『日本大百科全書』(小学館
《注2》 人によっては「桜折る馬鹿、梅折らぬばか」とも言う。
《注3》 枝の抜き跡に残る傷口を早く癒すために塗る薬剤。傷口の乾燥を防ぐようペースト状に練られたものが多い。元は、傷口が風雨に当たらないよう保護する目的だった。
《注4》 http://japan-web-magazine.com/japanese/aomori/hirosaki-castle/index.html