年賀状の「頌春」はなんと読むか、意味は?

(第155号、通巻175号)
    毎年、クリスマスの前後になると年賀状書きに追われる。来年こそ余裕をもって早めに書き始めよう、と思いながら幾星霜、怠惰は一向に直らない。今年も今ごろになってようやく「謹賀新年」を書き出したところだ。
    「謹賀新年」は、いわば年賀状の代名詞。字句通りの意味は「謹んで新年を賀する(喜び祝う)」ことで、賀詞としてはもっともポピュラーだ。ほかに、恭賀新年、謹賀新春、賀正、迎春、賀春、頌春といったところがよく使われる。
    「春」と付く賀詞が目立つのは、旧暦で立春ごろに元日が巡ってきたことから「新年」をも示す言葉になったからだろう。たいていの人は、年賀状に「明けましておめでとうございます」とか「謹んで新春のお慶びを申し上げます」とかの文章を書くか、あるいは4字熟語か2字熟語の賀詞を使っているのではあるまいか。しかし、これらの言葉のうち「頌春」はなんと読むか、「頌」はどんな意味か、ご存じだろうか。実は、私も家人に尋ねられて一瞬戸惑った。
    「頌」の部首は「頁」だが、文字の左側の偏にあたる「公」に引きずられてつい「こう」と読みがちだ。しかし、故郷の公園で遊んでいた子供のころ、園内に「○○顕頌碑」とあった記憶を思い出した。たしか「けんしょうひ」と言っていた。そんなあいまいな思い出よりも、「しょう」と読む確かな見本が身近にあるのに気付いた。有名な合唱曲「大地讃頌」《注》である。この歌は、中学校、高校の合唱祭や卒業式での定番になっているほどの名曲なので、ふだん合唱に縁はなくとも、歌ったことある人は多いはずだ。個人的には、作曲者の佐藤眞・元東京芸大教授と知り合いうこともあり、私自身よく口ずさむ歌だ。もちろん、「だいちさんしょう」と読む。
    「我ら人の子の 大地を ほめよ たたえよ土を 母なる大地を たたえよ ほめよ」と恩寵(おんちょう)豊かな大地に限りない感謝を捧げる詩からとられた題名だ。「頌春」は言うまでもなく、「しょうしゅん」と発音する。春(新年)をたたえる、という意味である。『新潮日本語漢字辞典』には、「新春をことほぎ、たたえること。年賀状などに用いる」とある。
    ことのついでに言うと、賀詞のうち、2文字のものは、簡略した感じが強いので、目上の人には使わない方が無難、と言葉のマナー読本には書いてある。私自身の好みの賀詞は、「春風献上」と「天地皆春」だ。


《注》 佐藤眞作曲、大木惇夫作詞の「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」から。現在は男声合唱版もある。7楽章からなる合唱組曲で、「大地讃頌」はフィナーレにあたる第7楽章の題名