「ルーピー鳩山」。米紙の首相像も「宇宙人」?!

(第176号、通巻196号)
    「言葉が軽い」「リーダーシップに欠ける」「発言が二転三転し無責任」などとこのところ酷評され続けている鳩山首相。昨年9月の内閣発足時に70パーセント台を超えていた世論調査の支持率も坂道を転げ落ちるように下落、ついに危険水域とされる20パーセント前後に《注1》。国内だけでなく、米国政府の見方も厳しいようだ。
    先月中旬、米国での核サミットに出席した鳩山首相について、米ワシントン・ポスト紙は人気コラム“In the loop”の中で、「(サミット参加の首脳の中で)最大の敗者」と呼び、「哀れでますます愚かな日本の首相」《注2》と酷評した。
    後段の部分の原文のキーワードは“loopy”という語だ。「輪」を意味する“loop”に接尾語の“y”を付けて形容詞化したもの。あまり一般的な単語とは言えないが、英和辞典には「輪の多い、頭のおかしい、ばかな」とある。そこから日本の新聞やテレビのコメンテーターの中には“loopy”の意味を「頭のいかれた」と訳したり「(頭が)パーじゃないか」と解説したりする向きもあった。
    それどころか、当の鳩山首相自身が普天間問題をめぐる党首討論で谷垣自民党総裁に「ワシントン・ポストが言うように、私は愚かな総理かもしれない」とあっさり追認してしまった。しかし、“loopy”の訳し方に疑問をいだいた日本のある大学の言語学の教授がワシントン・ポスト紙のコラムの筆者にEメールで「日本のマスコミは、『愚か』あるいは『クレージー』と、二通りの解釈をしているが、どちらが正しいのか」と問い合わせた。
    この質問を受けて、コラムの筆者は自らのコラム“In the loop”に「ルーピー鳩山」を再び取り上げ、次のように答えた。「“loopy”という語の意味について私の近くの席の記者仲間と話し合った結果、鳩山首相が(党首討論の中で)発言した『愚か』というよりは『妙に現実から遊離している人』《注3》を意味している、ということで意見が一致した」。文字通り浮世離れした人。まさに「宇宙人」という首相のあだ名にピッタリだ。
    それにしても、自分の書いた記事の用語の定義をめぐって職場仲間と話し合うのも妙な気がするが、“loopy”という単語が人によって様々な意味合いで使われるほどあいまいな言葉なのか、それともメールに対する回答をコラムに書くこと自体で首相への揶揄(やゆ)を表現しているのだろうか。
    ちなみにコラムの通しタイトル“In the loop”は、「権力の中枢にいて;情報を知りうる立場にあって」という意味の熟語である《注4》


《注1》 5月16日付け朝日新聞朝刊
《注2》 該当個所の原文は“the hapless and increasingly loopy Japanese Prime Minister”
《注3》 この部分の原文は“someone oddly detached from reality”
《注4》 学研『スーパー・アンカー英和辞典』第4版