「小江戸」(こえど)と「小京都」(しょうきょうと)

(第171号、通巻191号)
    
    「世に小京都は数あれど、小江戸は川越ばかりなり」と言われる川越を先日訪れる機会があった。有名な蔵造りが続く1番街商店街。想像していたよりは短い通りだったが、それでも鬼瓦、重厚な黒塗りの壁面に観音開扉の蔵が集中して並び、世に多い「○○銀座」の類とは対極の味わいがある。松平信綱柳沢吉保など江戸幕府重臣が藩主を務めた城下町らしい往時のたたずまいを彷彿とさせる町並みだ。
    
    「小江戸」という語には、まるで江戸の町のように賑やかで江戸情緒が色濃い、という意味合いが込められているのだろう。川越と並ぶ小江戸・千葉の佐原には「お江戸見たけりゃ佐原へござれ、佐原本町江戸まさり」との言葉が伝わる。言いも言ったりだが、本場の江戸にもひけをとらないほど繁栄を誇った、という自負なのだろう。共に発音は「しょう江戸」ではなく「江戸」である。
    
    「小」には、単なる「小さい」の意だけではなく、「こ1時間」、「小憎らしい」、「小高い」、「こしゃくな」などのように、少し、ちょっと、わずかに及ばないがそれに近い、という意味も表す。「小江戸」はその典型だ。
    
    同じ「小」と書いて同じような意味合いの“地名”に「小京都」がある。こちらは「こ京都」とは言わず、「しょ京都」と発音する。しかも全国的には圧倒的に「こ江戸」より多い。有名な所では、秋田県の角館、石川県の金沢、岐阜の高山、といった地名がすぐに思い浮かぶ。
    
    古い街並みや風情、雰囲気が京都に似ているところから京都にあやかって名付けられた愛称だ。自称、他称を含め小京都を名乗る所は少なくないと思われるが、驚いたことに全国の小京都を集めた「全国京都会議」なる組織があるのである《注1》。
    
    ウェブの『はてなキーワード』《注2》の記述によれば、この会議は1985年に結成され、88年の第4回総会で小京都の要件として次の3点の加盟基準が決められた。1)京都に似た景観、2)京都の歴史的なつながり、3)伝統的な産業と芸能があること。
    
    この会議には本家の京都市を含め26の市町が加盟しているというが、加盟外の市町でも「小京都」を観光のキャッチフレーズにしている所もある。面白いのは、ただ1個所、栃木市だけが小江戸と小京都の両方を名乗っていることだ。
    
    私にとって不思議なのは、なぜ片方が「こ」で、もう片方が「しょう」と呼ぶのかだ。「小江戸」を「しょう江戸」と言っても、「こ京都」と言っても不便だとは思えない。音韻論的に理由があるのか、それとも単なる慣習にすぎないのだろうか。


《注1》 実は小江戸についても「小江戸サミット」が1996年に栃木で開催され、以後毎年のように開かれている。会場は、佐原(現、香取市)、川越、栃木の「小江戸」3市が中心となって持ち回りで担当しているようだ。

《注2》 http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C1%B4%B9%F1%B5%FE%C5%D4%B2%F1%B5%C4