道産子も「雪投げ」は「ゆるくない」 

(第161号、通巻181号)
     2月に入ったとたん、首都圏に雪が舞った。私の住む横浜の街並みも昨日2日の朝は久しぶりにうっすらと雪化粧。道産子には、いっときの懐かしい光景だったが、同時に「雪投げ」のつらさも思い出した。
    国語辞典で「雪投げ」を引くと、「雪合戦」と出てくる《注1》。ついでに和英辞典に当たってみたらやはり雪合戦を見よ、とあり、その雪合戦の項には“snowball fight, snowballing”とあった。北海道でも、雪投げが雪合戦を意味することもないではないような気もするが、ふつう北海道で雪投げ(動詞形では「雪を投げる」)と言えば、「雪捨て」(除雪・排雪)を指す。
    北海道弁で「投げる」は「捨てる」の意味も持つ。以前、当ブログで紹介した「ゴミを投げる」と同じ用法である《注2》。学校や地域で「雪投げ当番」制を取っている所もある。降雪量が数センチ程度ならそれほど大仕事ではないが、湿って重いボタン雪が10センチ以上となると、雪投げも重労働だ。つい「ゆるくないなぁ」とぼやきも出る。
    「ゆるくない」とは、共通語で言えば「緩くない」だが、北海道弁では「(仕事・作業が)きつい、容易でない、つらい、大変だ、困難だ」という意味で用いられる《注3》。しかし、きつすぎてやっていられない、というほど強い意味ではない。確かに楽ではなく、しんどい作業ではあるが、まだ少し余力はある、といったニュアンスだ。北海道弁をテーマにしたあるウエブ《注4》は、道産子の我慢強さ、けなげさを示す言葉だ、と自賛している。  
    雪投げに話を戻すと、私の語感では、この語は雪を手作業で捨てる、という響きがある。除雪というと機械力も加わるイメージがする。除雪とペアで用いられる「排雪」作業となると、ブルドーザーやトラックなど機械力が主体になる。国語辞典では、除雪と排雪を区別せず、同義に扱っているケースが多いが《注5》、雪国では必ずしもそうではない。
    除雪は、狭義では道路や屋根などに降り積もった雪を取り除いて道ばたなどに捨てる作業(雪かき)のことだが、捨てられた雪の山が大量になるとその上に積み上げることが出来なくなる。そこで道ばたの雪の山を広い空き地や川などに運んで処理なくてはならない。この作業をとくに排雪という。雪国では除雪するだけでは事は済まない。ゆるくないのである。
    

《注1》 『現代国語例解辞典』第4版(小学館)、『岩波国語辞典』第7版など。季語冬
《注2》 2007年1月31日号「手袋を『はいて』ゴミを『投げる』道産子」。(http://d.hatena.ne.jp/hiiragi-june/searchdiary?word=%a5%b4%a5%df%c5%ea%a4%b2
《注3》 『日本国語大辞典』第2版(小学館)によれば、青森、秋田、宮城など東北地方でも同じ用法がある。
《注4》 「新シリーズ よく使う北海道弁詳説」(http://www.furano.ne.jp/saladhouse/html/hougenyurukunai.htm
《注5》 『明鏡国語辞典』(大修館書店)は「除雪」の項で「降り積もった雪を取りのぞくこと」と説明しており、「排雪」の項では、「降り積もった雪を取り除くこと」と、「取りのぞく」という表記が「取り除く」と漢字に変わっている点が違うだけで、あとはまったく同じ記述だ。最後に同意語として「除雪」の単語を示している。