「コウガイ」と聞いて思い浮かぶ単語は?

(第159号、通巻179号)
    テレビのミステリードラマ「刑事コロンボ」シリーズが、NHK衛星ハイビジョンで再放送されている。先週土曜日(16日)に放映された「第三の終章」(第22話)でオヤッと感じるセリフが何回も出てきた。ドラマの設定は、小説の出版にからんで起きた殺人事件なのだが、そのセリフとは「コウガイ」。たとえばこんな具合だ。「『サイゴンに60マイル』という題の小説を書きたい、という内容でした。コウガイもついていました」。「そのコウガイは返さなかったんですか」。「コウガイを読んですぐにこれはいけると思ったんだ」。 
    このドラマの日本語のセリフ吹き替えは、「うちのカミさん」で知られるように毎回こなれた翻訳なので、これまでまったく違和感を覚えたことはなかったが、今回の「コウガイ」というセリフに限っては理解するのに一瞬戸惑った。漢字で書けば「梗概」、つまり、物語などの大まかな筋、あらすじのことだが、文字にしてみても一般にはあまり馴染みのない言葉だろう。まして、日常の会話ではまず使わない。テレビの音声だけでは何を意味するのかすぐに思い浮かばないに違いない。日本語には同音異義語が多いからだ《注1》。
    試みに「コウガイ」と発音する単語を『大辞林』第3版(三省堂)で拾ってみると15もある。『広辞苑』第6版(岩波書店)も同じだった。公害、校外、郊外、といったところならすぐに見当がつくが、笄(女性のまげに挿す髪飾り)とか、蝗害(イナゴが稲などを食う害)とか、私にとっては初めて目にする単語も含まれている。問題の梗概は、まれに自分でも使ったことがあるので《注2》、テレビで耳にしたときかえって気になったのかもしれない。
    このような場合、別のやさしい言葉に言い換えるべきだが、同音異義語をどうしても使いたいなら、せめて最初は、言い換え語を添えて、「梗概、つまりあらすじ」にするとか「作品のおおざっぱな筋、梗概のようなもの」と変えるとかの工夫がほしかったと思う。
    同音異義語といえば、パソコン時代の前にワープロが流行りだしたころ、日本語変換能力を試す例文として各社のワープロに「キシャノキシャハキシャデキシャシマシタ(貴社の記者は汽車で帰社しました)」や「スモモモモモモモモノウチ(李も桃も桃のうち)」などを打ち込む姿が電気店で見られたものだ。ちなみに、上の二つの例文は、私が現在、パソコンで使っている、かな漢字変換ソフトのATOKで一発で変換したものだ。
    今回のブログを書くにあたってウエブ検索中、あるサイト《注3》で面白い文例を見つけた。「ニワニハニワニワトリガイル(庭には 二羽 鶏がいる)」というニワ尽くしの作例だ。同音異義語が多い日本語の特性については以前触れたことがあるが《注1》、今回は、たまたまテレビドラマで格好のセリフを耳にしたので、ダブり承知であえて取り上げてみた。悲憤慷慨(こうがい)するほどの話ではないが……


《注1》 当ブログの2009年2月18日号「同じ読み方の漢字」で詳報。
《注2》 当ブログの2007年2月21日号「武士の一分」でも使用。
《注3》 「シリウス/静岡教育サークル」(http://homepage1.nifty.com/moritake/kokugo/gen/hatuon-onazi.htm