世界初の「青いバラ」と花言葉

(第148号、通巻168号)
    バラ(薔薇)といえば、ほとんどの人は真紅の花を思い浮かべるだろう。実際には改良が進んで色も赤のほかピンク、黄、白と多彩にふえたが、「青いバラ」だけはできなかった。このことから、英語の“a blue rose”は「不可能」を意味する代名詞になっている。研究社の『リーダーズ英和辞典』第2版には「ありえないもの。できない相談」とある。
    ところが、2004年6月にサントリーが遺伝子組み換え技術を使って世界で初めて「青いバラ」の開発に成功した、と発表。これまで商品化が待たれていたが、昨日11月3日、ついに首都圏などの契約生花店で売り出されたのである。これに先だってサントリーが先月下旬プレスリリースしたところによると、商品名は英語で喝采を意味する「アプローズ」(applause)、花びらに青い色素が含まれ、濃厚な甘い香りがするという。ただし、価格は1本2千円から3千円程度。通常のバラの10倍もする「高値の花」だ。
    バラは『日本大百科全書』(小学館)などによれば、農耕文明の始まりとともにあった。文献に歴史上初めて登場するのは、古代メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』とされる、その中で、バラは棘(とげ)のある植物の譬(たと)えとして取り上げられているそうだ。人を傷つけるもの、という意味合いだ。
    聖書にも、「彼ら汝らの肋(わき)を刺す茨(いばら)とならん」(旧約『士師記』)とか、「我は肉体に一つの棘を与えらる。すなわち我を撃つサタンの使いなり」(新約『コリント後書』)などとある。どうもその頃は、花の美しさを愛(め)でることもさることながら、棘を一種の凶器、武器とみなしていたようだ。グリム童話には、姫を求めてイバラの城に入った王子がイバラに引っかかって傷だらけになり、身動きが取れなくなってしまうという物語(『いばらひめ』、別名『眠りの森の姫』)が載っている。
    そうはいっても、バラの美しさは花の中でも群を抜いている。その華麗にして典雅な美しさと甘美な香りから「花の女王」とも呼ばれる。愛、喜び、美、純潔、の象徴とされ、文学作品にも数多く登場する。花言葉も多種多彩。赤いのは、愛情・貞節・美、白は清純・乙女の心・無邪気、黄色は友情、ピンクはしとやか……とプラスイメージのものが多い。
    さて、こんど初めて誕生した青いバラ花言葉は? 発売元のサントリーは、開発を始めてから商品として"開花"させるまで約20年もの歳月をかけた思いを込めて「夢かなう」を花言葉とした。「神の祝福」とか「奇跡」とかという説もある。青いバラにどんな花言葉が定着するにせよ、美しいものには棘がある、ことには変わりない。


《お断り》 今回の題材は、gooブログ時代の「言語楼」で2006年7月7日号と7月25日号の2回に分けて取り上げた内容をもとに、新たな知見を加えて書き直したものです。