日本の「時」は子年から始まった

(第53号、通巻73号)
    年賀状の季節になると干支が話題になるが、ふだんは、遠回しに年齢を尋ねる時など以外はまず意識しないのではあるまいか。今回は、趣向を変え「子(ね)年)」にからむトリビアを独断もまじえて紹介しよう。

    今年の干支の「子」は、十二支の1番目である。方角では北を表す。南の方角は十二支で7番目の「午(うま)」が表す。北と南を結ぶ線を「子午線」という。

    子午線には、天文上の子午線と地学上の子午線がある。どちらにせよ無数にあるわけだが、日本で「子午線」と言えば普通、兵庫県明石市を通る東経135度の地球の経線(日本中央子午線)を指す《注1》。この地点を太陽が南中する「正午」が時刻の基準になる。すなわち、日本の標準時である。

    関東地方のほぼ中央を140度の経線が通っている。日本列島の西寄りに位置する明石よりも東経140度の子午線を日本標準時とした方が便利ではないか、という気もするが、実際問題となるとそう簡単にはいかないのだ。

    日本だけでなく、各国(ゾーン)の標準時は、英国のロンドン郊外にあるグリニッジ天文台の「子午線」を基準(世界時=GMT)に決められている。この子午線が地球上の経度の基点の0度0分0秒(0°0′0″)だ。とくに「本初(ほんしょ)子午線」と称される。「本初」とは、『明鏡国語辞典』(大修館書店)によれば、「はじめ」、「もと」という意味だ。

    各地の標準時は、この「本初子午線」から東西に15度離れるごとに、1時間の時差を加減して決められている。東に向かえば15度ごとに1時間ずつプラスし、逆に西に離れていけば1時間ずつマイナスしていく。GMTが正午の場合、東経135度を基準とする日本時間は135÷15=9で、午後9時となる。しかし、日本の標準時を仮に140度の経線にすると、15で割り切れず、午後9時20分という半端な時間になる。計算が面倒でいろいろ不便が生じる。というわけで、国(ゾーン)ごとの時差は、原則としてできるだけ1時間の倍数の整数になるようにされたようなのだ《注2》。

    日本が、グリニッジ標準時を基に東経135度の子午線の時間を自国の標準時として採用したのは、1888年明治21年)1月1日からだ。今からちょうど120年前の「子年」である。日本の「時」は子年から刻み始めた、ともいえる。 


《注1》 『ベネッセ表現読解国語辞典』の「子午線」の項には、天の子午線と地の子午線の2種類の語義が載っているが、「地の子午線」の説明として「多く、その国の標準時として定めた規準の経線を指す」とつけ加えられている。

《注2》 米国のような国土が広い国では、本土だけで東部、中部、山地、太平洋の4種類の標準時がある。ハワイとアラスカを加えると、標準時は6種類になる。“teachers paradise com”というウェブサイトの「標準時」(http://www.teachersparadise.com/ency/ja/wikipedia/_/__/__49.html)によると、オーストラリアの中部標準時のようにGMTより9時間30分進んでいる所やネパール標準時のように5時間45分の時差の国もある。

《参考》 『日本大百科全書』(小学館)ほか、明石市立天文科学館のホームページ(http://www7.plala.or.jp/tower/akashi/akashi.html)などのサイトも参照。