「順延」と「延期」の違い

(第236号、通巻256号)
    子供たちが夏休みに入ると、スポーツ大会や盆踊り、花火大会など様々な行事がある。気になるのは、悪天候などの時の日程変更である。
    花火大会が23日(土)に予定されていたとする。大会予告のポスターには、日付の横に(雨天順延)とある。あいにく23日が大降りの雨だった場合、花火大会の開催日はいつになるのか。翌24日(日)なのか、それとも1週間後の30日(土)に延びるのか、迷う人も少なからずいるのではあるまいか。
    正解は、翌日の24日である。「順延」を国語辞典で引くと、たとえば『日本国語大辞典第 2版』(小学館)では「順次に予定の期日を延ばすこと。日をおって延期すること」としている《注1》。たいていの辞書は用例も「雨天順延」と申し合わせたようにいっしょだ。
    この定義に従えば、24日も雨ならその翌日の25日、となる。あくまで順ぐりに期日を延ばすのだ。だから、「23日(土)に予定されていた花火大会は、雨天のため、29日(金)に順延します」と書くのは厳密に言えば間違いである。
    では、花火大会の予告ポスターに「雨天延期」とあった場合はどうか。これだと、当日雨なら大会は中止となり、別の日に延期になることは分かる。しかし、その「別の日」が翌日なのか、3日後なのか、あるいは1週間後なのかははっきりしない。「雨天の場合は、○日に延期」と具体的に書くのが望ましい。
    期日を延ばす、という点では「順延」も「延期」も同じだが、順延は狭義、延期は広義を表すということだ。
    面白いことに、「順延」に当たる言葉は英語にはないそうだ。『スーパー・アンカー和英辞典』(学研)は、「順ぐりに期日を延ばすことの意『順延』にぴったりの英語表現はないので、用例のように『いついつまで』のような説明語句を添える」として、以下のような例文を示している。
   「雨のため試合は来週まで順延となった(Because of the rain the game was put off till next week)。 日本シリーズは(好天になるまで)順延された(The Japan Series was postponed till the first clear day)」《注2》。

《注1》 小学生向けの『国語学習辞典』(光村教育図書)は昭和58年1月刊の古い辞書だが、語釈の前に例文を挙げたユニークな編集で、『コリンズ英英辞典』と似ている。語義の説明も丁寧だ。「順延」については「前もって決めておいた日を、一日ずつ順々に延ばしていくこと」とある。
《注2》 和英辞典の二つの例文の中の日本語は、「順延」より「延期」とすべき、と個人的には思う。