「初孫」は「ういまご」か「はつまご」か 

(第32号、通巻52号)
    先週金曜日の10日早朝、娘が女児を無事出産した。娘夫婦にとっては結婚5年目にしてようやく授かった我が子であり、私ども夫婦にとっても喜びは格別。娘には口にこそ出しはしなかったけれど、ひそかに待ち望んでいた初孫なのである。ところで、この「初孫」の2文字、あなたはどう発音するか。

    言葉にうるさい人や年配者は、当然のごとく「ういまご」と言うだろう。が、一般的には「はつまご」と呼ぶ人が多数派かもしれない。

    と、こう書き進め始めれば、正しい言い方は「ういまご」という結論にもっていく筋書きと思われるだろう。事はそう単純ではない。辞書でさえ判断が分かれているのである。辞書の扱いを、以下の3種類に大別してみた。

      1)「ういまご」を主見出しに立て、[その人にとって初めての孫。はつまご。]と説明し、「はつまご」については空見出しにしている=『岩波国語辞典』、『新明解国語辞典』など。
      2)「はつまご」を主見出しにし、語釈は1)と同じだが、「ういまご」の項には[「初孫(はつまご)」のやや古い言い方]=『明鏡国語辞典』。また、辞典ではないが、文化庁の『言葉に関する問答集 総集編』《注》には、NHKの放送用語を引用して、「はつまご」は現代ふうの言い方、「ういまご」は昔ふうの言い方、とある。
      3)両論併記とでも言うべき扱い。『大辞林』、『広辞苑』、『大辞泉』などのいわゆる中型国語辞典は「ういまご」も「はつまご」も区別せず、両方を主見出しに掲げている。小型辞典でも『三省堂国語辞典』は両論併記だ。

    辞書の対応にブレがあるのは、現実の社会で両方の使い方が共存しているのに加えて、歴史的にも国語学的にもどちらが正しいか断定できないため、と思われる。

    例によって国語辞書の中の辞書『日本国語大辞典』を調べてみると、「ういまご」は17世紀の『仮名草子』に見られ、「はつまご」はなんともっと古い11世紀の『栄花物語』に「はつうまご」の形で使われているのである。結局は、どちらの読みでもかまわないということになる。

    私自身は、会話の状況や話し相手に応じて使い分けているが、どちらかと言えば「ういまご」派に属する。肝心の初孫の名前はまだ決まっていない。が、その顔を思い浮かべるだけで可愛さが募る。そして幸せな人生を歩んでほしい、と切に思う。

    私には、娘の下に息子も2人いる。遠からず生まれるであろう2人の息子の子どもたちにも、同じように幸せを願うのは言うまでもない。

    きょう15日は62回目の終戦記念日である。孫たちの世代だけでなく、ずっとずっと続いていく子々孫々のためにも、もう二度と戦争の愚を繰り返してはならない。今日は、その誓いを確認する日でもある。


《注》 『言葉に関する問答集 総集編』は、平成7年大蔵省印刷局(当時)の発行。この中で「初孫」の読みについて以下のように記している。
    「うい」:「最初の」「生まれて初めての」の意を添える成分で、初産、初陣、初琴、などと用い、「事に当たって初心で、不慣れでぎこちない」というのが、元の意味である。
    「はつ」:「ある一定の周期ごとの初回、例えば、一日、一年などの初め」の意であることが多く、初午、初荷、初日、初詣、などがある。

《注の注》 上記の注で「うい」の読みの例として「初産」を挙げているが、「しょさん」、「はつざん」とも言う、と辞書にはある。「しょさん」は医学界で使われるそうだ。