「員数」と「人数」

(第322号、通巻342号)

    入学式、新学期が近づくと、辞書類の広告が目立ってくる。国語辞典だと、最新の単語をいかに多く収録し、新用法や用例の充実ぶりをうたうのが普通だ。しかし、その陰で旧版まで収録されていた語がかなり削られている。漏れた語が必ずしも死語、廃語扱いというわけではないが、辞書のページ数が限られている以上、物理的にやむを得ない措置だ。

    先日、地域内の親しい仲間10人ほどで昨年急逝した友人を偲ぶ会食の場を持った。故人の思い出話にからんで、談たまたま日本語の流行り廃(すた)りに及ぶや、自分たちが子どものころから働き盛りの時代までは日常語だったのに、近ごろはとんと耳にしなくなった言葉がいくつもある、という話題になった。たとえば、(国鉄の)物資部、(列車の)チッキ、E電(国電or電車)、チョッキ(ベスト)、アベック(カップル)…。

    そんな言葉の中から今回は「員数」を取り上げたい。この語は決して死語ではない。工業界などでは現在でもごくふつうに使われているが、もはや一般的とは言えない。ほとんど同じ意味の「人数」が代替役を務めるようになってきたからだ。そこで「員数」を「人数」という語と比較してみよう。

    「員数」は、『広辞苑』第6版』(岩波書店)によれば、「人や物の、かず。特に、ある一定の数」をいう。これに対して「人数」の意は、「人の数。あたまかず」とある。人間の数という点は、両語に共通している。が、員数は人の数だけではなく、物の数も表わし、しかもある一定の枠内の数を示す。言い方を変えれば、人や物の、全体での必要数を指す。たとえば、団体旅行で引率者が人数分の入場券や弁当などの割り振り計算をする時は「員数合わせ」という。ここから、無理なつじつま合わせのことも員数合わせというようになったのだろう。

    一方で「員数」があまり使われなくなったのは、兵站(へいたん)などと軍隊のにおいがするからだろうか。同じ事を今は、ロジスティックと表現することが多いようだ。